第127回 リモートワーク時代の職場のチームワークを考える(3) ~チーム・コミュニケーションの活性化をはかる管理職のリーダーシップとは~

2021.06.30 山口 裕幸(九州大学 教授)

 前回、組織やチームが難局や苦境に直面するとき部下達が一緒についてくる「リーダーシップの本質」を備えるには、部下達とのコミュニケーションの取り方が鍵を握ることを論じた。今回は、コロナ禍にあって、従来型の対面状況でのコミュニケーションの機会が少なくなり、リモートでのやりとりが増えつつある今、部下達との意見交換、議論を活性化する管理職のリーダーシップとはいかなるものか考えてみたい。

 これまで紹介してきたように、近年、組織やチームに「心理的安全性」を構築するためのリーダー行動の重要性が広く認識されてきている。心理的安全性研究の第一人者であるエドモンドソンは、具体的に以下の8つのポイントを示している(Edmondson, 2012)。すなわち、(1)直接話ができる人になる(親しみやすい言動をとる)、(2)現在持っている知識の限界を認める(謙虚さ)、(3)自分も間違うことを積極的に示す、(4)参加を促す(一緒に頑張る仲間であることを意識する・させる)、(5)失敗は学習する機会であることを強調する(失敗を責めるよりも、そこから皆で学ぶことを動機づける)、(6)具体的ですぐ行動に移せる言葉遣いをする、(7)望ましい行動はどこまでで、どこからは行き過ぎなのか、その境界線(超えてはいけない境界)を明示する、(8)部下が境界を超えて行き過ぎた行動をとった場合、その部下にきちんと責任をとらせる(公正な態度を守る)。

これらのポイントを一挙に全部満たすのは難しいかもしれない。現実的に考えれば、(1)から(8)に向かって一歩ずつ階段を登るように取り組むのが理にかなっているだろう。(1)のステージを実現するには、まず、コミュニケーションの機会を拡充することである。このコラムでも紹介したワン・オン・ワンの機会を拡充することや定例ダイアローグの開催など、地味ではあるが着実な取り組みの有効性が多数報告されている。何を差し置いても、部下とのコミュニケーションの機会をしっかり持つことは、管理職が人を動かす影響力を身につけるための基盤である。

 しかし、コミュニケーションの機会が十分に確保されるだけでは、難局を打開すべく部下達が革新的で挑戦的な仕事に取り組む姿勢を高めることに、即座に結びつくとは限らない。管理職の持論が展開され、まるで説教を受けるようなコミュニケーションばかりでは、部下達は萎縮することになりかねない。大切なのは、部下とのコミュニケーションでは、管理職は話を聴くことに重心を置くことである。部下の気持ちになれば、「この上司は自分の話を聴いてくれる」という思いが、上記の(1)に掲げた「直接話をできる人だ。親しみやすい言動をとる人だ」という認識につながる。

 (2)や(3)のステージは、少し勇気が必要だ。管理職に就くと言うことは、優秀な業績を積みかねてきて、その力量が評価され、期待されているからであろう。そのことに自信を持つことは良いことである。しかし他方で、誰しも部下達の前では弱い自分を見せたくないし、有能でできるだけ完璧な人間でありたいと感じるものであろう。部下達も自分の上司はどんな人なのか、大いに気になっている。ホランダーが報告したように部下はとりあえずひとまず自分の上司を信頼しようとする傾向(特性信頼; idiosyncratic credit)を持っている(Hollander, 1958)。部下達は、「自分の上司は有能で、職務に関することは何でも知っている」と期待する傾向をデフォルトに持ったうえで、上司との関係を考え、上司を評価していくわけである。したがって、(2)現在持っている知識の限界を認める(謙虚さ)、(3)自分も間違うことを積極的に示すといった言動は、意識して勇気を持って取り組まなければならない類いのものであると考えられる。

 (2)や(3)が重視する管理職の謙虚さを伴うリーダーシップは、ここ数年で、シャイン&シャインの「謙虚な(humble)リーダーシップ」(Schein & Schein, 2018)をはじめとして、ライアンやホランダーが言及している「包摂的(inclusive)リーダーシップ」(Ryan, 2007; Hollander, 2012)、さらにはこのコラムでも紹介したコリーザーらの「セキュアベース・リーダーシップ」(Kohlrieser, Goldsworthy, & Coombe, 2012)等、管理職が謙虚な姿勢で部下とコミュニケーションをとることの重要性を指摘する理論が目白押しである。もちろん、グリーンリーフ(Greenleaf, 1979)が40年を超えて主張してきたサーバント・リーダーシップの考え方はもちろん、優れたリーダーシップはメンバーへの個人的配慮が重要な備わるべき要素であることは、よく知られているところである。

 難しいのは、管理職として上位の職位に就くと、ついついその職位に付随する権力で部下を動かそうとしてしまうことである。部下を動かすのが管理職の大切な職務であることは言を俟たないが、そこで権力に依存してばかりいると、部下は指示されないと動かない傾向を強めていってしまう。どうすれば、部下の話に耳を傾け、自分の知識の限界を認め、失敗から学ぶ組織づくり、チームづくりのできるリーダーシップを身につけることができるのか。次回は、その「キモ」となるポイントについて考えていきたい。

<引用文献>
◆Edmondson, A. C. (2012). Teaming: How organizations learn, innovate, and compete in the knowledge economy. John Wiley & Sons. (『チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』、A. C. エドモンドソン(著)、野津智子(訳)、英知出版、2014年)
◆Greenleaf, R. K. (1979). Servant leadership: A journey into the nature of legitimate power and greatness. Business Horizons, 22(3), 91-92
◆Hollander, E. P. (1958). Conformity, status, and idiosyncrasy credit. Psychological review, 65(2), 117.
◆Hollander, E. P. (2012). Inclusive leadership: The essential leader-follower relationship. Routledge.
◆Kohlrieser, G., Goldsworthy, S., & Coombe, D. (2012). Care to dare: Unleashing astonishing potential through secure base leadership. John Wiley & Sons.(『セキュアベース・リーダーシップ ―<思いやり>と<挑戦>で限界を超えさせる』、G. コーリーザー、S. ゴールズワージー、D. クーム (著)、東方雅美 (訳)、プレジデント社、2018年)
◆Ryan, J. (2007). Inclusive leadership: A review. Journal of Educational Administration and Foundations, 18(1-2), 92-125.
◆Schein, E. H., & Schein, P. A. (2018). Humble leadership: The power of relationships, openness, and trust. Berrett-Koehler Publishers.(『謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』、E. A. シャイン、P. A. シャイン(共著)、野津智子(訳)、英知出版、2020年)

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