第88回 フレーミング・シフトはどのように進めるとよいか-「職場は学習の場」というフレーミング確立に向けて-

2017.11.27 山口 裕幸 先生

 仕事について考えるとき、「失敗=責任を追及されるもの」というフレーミング(とらえ方)になっていることを自覚することは、そこから新しい視点に立って、「失敗=将来のために学び生かすもの」というフレーミングで働くことへの転換、すなわちフレーミング・シフトを起こすときの出発点として大切であることを前回述べた。

 しかし、出発したからといって、即座に新しいフレーミングで捉えることができるようになるかといえば、それは容易ではないことも述べた。「変化に対する心理的抵抗」は、誰もが多少なりとも示す態度である。人間は、これまでの自分の考え方を変えることには、極めて消極的なのが一般的である。フレーミング・シフトを円滑に進めるには、どのようなことに気をつけて進めていったらよいのであろうか。

 我々が変化への心理的抵抗を示す場合によく行うのが、「どのような状態に変われというのか?具体的にわからないではないか」という疑問を呈示することである。確かにその通りで、やみくもに変われと言われても、途方に暮れるばかりである。まずは、「失敗は将来のために学び生かすもの」であり、「職場は学習の場」である、というフレーミングで仕事を考え、行動することができるようになることが目標地点であることを明確にすることが大事になる。

 その際、失敗しそうなことは避けて、粛々と仕事を片付けることを優先する態度は、責任を問われたくないという保身の感情を基盤に形成されていること、そして、そうした態度は学習や向上のチャンスの芽を摘み取り、「やらされ感」で仕事をすることにつながっていることを自覚するために、一緒になって考える話し合いの機会を持つことも忘れないようにしたい。なぜ、変化が必要なのかという問いへの、スジの通った返答は是非とも必要である。

 しかしながら、変化への心理的抵抗は、次なる疑問も生み出してくる。それは「どのようにすれば変わっていけるのか、やり方がわからないではないか」という疑問である。まるで子どもが駄々をこねるような印象を持つ人もいるかもしれない。しかし、大人とはいえ嫌なものは嫌であり、知恵が回る分、表面的には理解したようなフリをしながら、本心では上記のような心理的抵抗を示すことは大いにありうることである。そのような面従腹背的な態度をとる人もいることを踏まえたとき、ここで重要になるのは、考えることよりもまずできることをやってみる「行動を優先する」取り組みである。

 例えば、最近自分が失敗した経験を、職場の仲間と各自報告しあう場を作ることも意味があることが多い。自分が失敗した経験を人前で話すのは、誰もが避けたいことである。しかし、自分だけでなく皆が報告するのであれば、少しは気楽に話せる。また、失敗を報告するだけでなく、その経験を通して、自分なりに現在の仕事に生かせていることについても言及するようにする。誰もが失敗する経験をしながら、それをきっかけにして何かしら学び成長してきていることを、お互いに情報開示することで、失敗することへの恐怖感は和らぐことになる。

 また、この情報開示は、他者には見せないようにしている自分を見せる「自己開示」にもなる。自己開示された相手は、自己開示した者との心理的距離をそれまでよりも短く感じ、親近感を強めることが知られている。職場のメンバー同士が、互いの失敗を知り合うことで、心理的紐帯を強めることにもつながる可能性がある。

 もちろん、話したくない失敗を無理に話すように強要することはしないように気をつけることも大事である。あくまでも自分で話せると判断できることでよいし、話したくないのであれば、聞き役に徹してもらってもよい。周囲の同僚が次々と失敗経験の報告という自己開示をしていく中にいれば、いずれお返しに自分も少し話してみようかなと言う気持ちになる可能性は高い。自己開示にはそうした力がある。無理強いは逆効果でしかない。

 行動を優先する取り組みを重視するのには、心理学的な根拠がある。我々は、自分がとった行動の理由を無自覚のうちに捜している。行動の原因を捜し、これが原因だと決める心理的行為は、原因帰属と呼ばれている。いつもとっている行動であれば、自分にとって当たり前のことであり、その理由は捜すまでもない。しかし、自分がこれまでとってこなかった行動をとった場合、「なぜあんなことをしたのだろう」と自問自答し、何かしら納得できる理由を見つけようとする。

 自分が行動したことは事実であり、その行動をとった理由が必要になる。強要された場合には、「本当は嫌だったのに仕方なかった」という理由づけが成立するので、行動してこなかったそれまでの自分を正当化し、肯定することが可能である。しかし、自分で決めて失敗経験を話した場合には、「嫌だからというわけでもないし、やはり自分はもともと失敗しても次に生かせば良いという考え方を持っていたし受け入れていたから、話すことにしたんだ」という自己確認につながりやすい。意識が変わらないと行動も変わらないと考えるのが一般的であるが、意識を変えるには、まずできることから行動してみて、そのように行動した理由に気づくための省察をやってみることが効果的であることも多い。

 互いに失敗経験を話してみる機会を作ることは、それほど簡単なことではないかもしれないが、その前段として、フレーミング・シフトの大切さと必要性、そして、それが「やらされ感」で働くことからの脱却につながるというビジョンを呈示するプロセスを踏んで行われることで、フレーミング・シフトへの前進を着実なものにしていくだろう。管理者であれば、失敗経験など話したくないところだろうが、呼び水として先頭を切って話してみる勇気に期待したいところである。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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