第15回 何気ない行動から人間の社会性と心理を解明する取り組み(3)-コミュニケーション行動研究の知見から①-

2011.05.13 山口 裕幸 先生

 我々はお互いの考えや気持ちを伝えあおうと、実にさまざまなコミュニケーション行動をとっている。会話の際のうなずきは、同意や賛同を表すコミュニケーションの円滑剤である。話し相手とは同じ姿勢をとることが多くなることや、互いに交替で発話する会話のキャッチボールを行おうとすることも社会心理学の研究で明らかになっている。

 人間のコミュニケーション行動を観察して、その背後にある心理との関係性を分析していけば、家庭でも職場でも学校でも、もっと他者の気持ちを理解したり思いやったりすることができるようになる。

15-1.jpgのサムネール画像 さて、我々のコミュニケーション行動の中で、相手の本当の気持ちを推察したり理解したりするのを困難にしているのが「嘘」の存在である。生まれてこの方、嘘をついたことがないという人はいないだろう。嘘はいけないものだが、現実の生活は真実ばかりでは世知辛くなる。昔から人々は「嘘も方便」と言ってきた。相手を思いやる嘘もあろうし、事態を丸く収めるための嘘もあるだろう。とはいえ、詐欺にあったり、だまされたりするのは、何とか避けたいものである。会話するときに、どんなことに気をつけていれば、相手の嘘を見破ることができるだろうか。

 例えば、詐欺師などは実に上手に相手をだます。その巧みさゆえに、ついつい被害者は詐欺師の言葉を信じてしまうのだが、後々冷静になって考えてみると、話しの筋が通らない(論理に矛盾がある)ことや、挙動に不審な点があったりすることに気づくことになる。どんなところが、挙動不審だと感じさせるのだろうか。エクマンとフリーセン(Ekman & Friesen, 1969)は、人々を、嘘をつく条件と真実を話す条件に振り分けて、それぞれの条件のもとで人々がどのような非言語的行動を示すか実証的な検討を行っている。その研究結果によれば、嘘をつく条件の人々は、真実を話す人々に比べて、脚のせわしない動き(貧乏ゆすり等)が多いと報告されている。他にも、微笑が多かったり、発話時間や視線を合わせる時間が少なかったり、自分の身体を無意図的に触れる(髪に手をやる、口元やほほをさわる等)ことが多かったりすることも報告する研究もある。また、オヘアら(O'Hair, Cody & McLaughlin, 1981)によれば、一概に嘘をつくと言っても、準備した嘘を意図的につく場合には、思わず嘘をつく場合に比べて、発話の直前にうなずきが多く、微笑が少なく、そして自分の身体の一部を無意図的に触れる行動が多いことが明らかになっている。なお、自分の身体に触る行動は、発話直前だけでなく、発話中も、多く見られたことが報告されている。この自体接触は、嘘をつくとき人に見られる特徴的な行動であると考えられる。

 「目は口ほどにものを言う」と古来言い伝えられてきた。もちろん、これは正しいであろう。小さな子どもでさえ、相手の目を見て、その瞳孔の大きさによって、相手の感情の種類(喜び15-2.JPGのサムネール画像、怒り、悲しみ等)を読み取ることがわかっている。紹介した研究の結果を参考にするならば、相手の目を見ることに加えて、会話中、どのくらい相手が自己の身体をさ触る行動をとっているかで、意図的に嘘をつこうとしているのかどうか推察することができるといえる。その他にも、貧乏揺すりをしているようならば、相手は、会話よりも他のことに気をとられ、いらいらしているのだろうと推察できる。乗り出すように相手に向かって前傾姿勢をとっているのであれば、会話に熱中していると考えていいだろう。これらの非言語的行動は誰もが日頃経験しているものであり、ひとつ一つ例示されると納得いくものであろう。大切なのは、コミュニケーション中の非言語的行動の多くが、無自覚的にとられるということである。よほど気をつけていないと、ついつい出てしまうのが、コミュニケーションをとるときの非言語的行動である。「なくて七癖」と言われるように、誰もがちょっとした癖を持っている。もしかすると、特定の状況や環境のもとでは多くの人々が共通して示す癖が見つかるかもしれない。次回も引き続き、コミュニケーション行動を取り上げながら、今度は文化や規範の特徴を反映するものについて話しを進めていくことにする。

引用文献
Ekman, P., & Friesen, W. V., (1969). The repertoire of nonverval behavior: Categories, origins, usage and coding. Semiotica, 1, 49-98.

O`Hair,H,D.,Cody,M.J.,&McLaughlin,M.L.,(1981).Prepared lies,spontaneous lies,Machiavellianism,and nonverbal communication.Human Communication Research.7.325-339.

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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