第65回 職場のチームワーク再考(2)-職務特性によって異なるチームワーク-

2015.12.16 山口 裕幸 先生

 前回提起した問題意識は、チームスポーツや軍隊で優れた成果をあげているチームワークは、そのままメンバー1人ひとりの営業活動や事務業務が主体の職場にも効果的にフィットするのだろうか、ということであった。

 例えば、自動車の販売営業会社の場合を考えてみよう。会社全体としての成果は、どれだけ自動車を販売して、利益をあげるのか、という点に集約される。非常に極端な捉え方をすると、販売担当者が1人ひとり、しっかり目標台数を販売達成しさえすれば、会社全体としての目標も達成できることになる。この極端な視点に立てば、優秀な販売担当者を必要数集めることができれば、別にチームワークを論じる必要などなくなるように思える。

 ただ、容易に推察できるように、販売担当者たちが優れた成果をあげるには、担当者が不在のときに届いた顧客からの問い合わせをしっかり伝達したり、経理や各種必要書類を的確に処理したり、点検や整備のサービスをしっかり行ったり、と多種多様な業務による支援が必要であり、それらの担当者も欠かせないメンバーと言うことになる。こうした異なる様々な業務担当者どうしが、互いの業務遂行を思いやり、目配りと気配りをして、販売担当者がしっかりと目標台数を販売達成できるようにサポートしあってお膳立てできることが、ビジネスの組織で必要とされているチームワークということができるだろう。もちろん、販売担当者も、目標達成には他の業務担当者のサポートが不可欠であることを認識し、協力を惜しまないことが求められる。

 理屈はそうだとして、実際のところ、自動車の販売会社におけるチームワークはどのようなものであり、売り上げや利益といかなる結びつきがあるのだろうか?我々の研究チームが最近実証的に検討した結果があるので(縄田・山口・波多野・青島、2015)、参考までに紹介することにしたい。

 この研究では、ある自動車販売会社の営業本部に所属する64の販売店舗に勤務する831名の方々に質問に答えていただいた。質問の内容は、自分が勤務する販売店舗で行われている日常の連携活動の様子であったり、自分たちのチームワークについて評価をしてもらったりであった。また、質問とは別に、各販売店舗の販売台数と経常利益(いずれも構成員1人当たり)を業績指標として提供していただいた。

 分析の結果、各店舗のメンバーで連携して行う様々なチーム活動についての回答を集計して分析したところ、大きく2つの因子(要素)で構成されていることがわかった。1つは「目標への協働(コラボレーション)」であり、もう1つは「コミュニケーション」であった。実のところ、目標の明確化や連絡・報告、あるいは仕事の調整など、多様な活動を盛り込んで質問したのだが、統計学的には、上記の2つの因子に大きく括られて、回答者たちには認識されていることが明らかになった。

 さらに、この2つの因子どうしの関係性と、それに続く業績指標との関係性を分析したところ、各販売店レベルで見たとき、図1に示すように、「コミュニケーション」が「目標への協働」に影響して、その結果、経常利益および販売台数に影響が及ぶという関係にあることが確認された。

 この結果は、一見すると、ごく常識的なことがらを再確認したもののように考えられる。しかしながら、職場のコミュニケーションが、結局、メンバーどうしが組織目標の達成に向けて協働するプロセスを活性化し、高業績に結びつくという主張は、カンや経験に基づく主観的なレベルに留まるものではなく、客観的なエヴィデンスに基づく科学的な主張としても通用することを、この研究結果は明らかにする点で価値を持っている。もちろん、種々の制約の中で得られた知見であり、安易に一般化することには慎重でなければならないが、「なるほどメンバーどうしのコミュニケーションは結局のところ、職場の業績につながっているのだな」という確信をもってマネジメントに臨む基盤を支える知見として重要だろう。

 ラグビーやサッカーのようなスポーツチームや、手術に臨む医師・看護師チーム、火災現場で消火にあたる消防士チームは、メンバー同士で役割を分担したうえで、密接に連携して、一つのまとまりある生命体のように業務の遂行に取り組む。そこでは短い時間の中で、濃密な凝縮された連携が必要とされる。それに対して、今回取り上げているビジネス組織の場合、緩やかな時間の中で、コミュニケーションをしっかりとり、組織目標の達成に向けて協働することで、一人ひとりがその役割を十全に果たすように促進するものとして、チームワークは機能しているといえるだろう。

 時間的な要素が異なる中で、チームワークに必要な特性も、効果を発揮する機能も異なってくる可能性がある。個人の成果を集積するタイプのチームの場合、必要となるチームワークの特性には、チームスポーツのそれとは異なる側面があることを理解したうえで、その育成とマネジメントを行っていくことが、これからの組織におけるチームマネジメントを検討するうえでの課題のひとつといえるだろう。

【引用文献】
縄田健悟・山口裕幸・波多野徹・青島未佳 (2015). 企業において高業績を導くチーム・プロセスの解明 心理学研究 85(6), 529-539.

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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