第155回 どんなリーダーシップがチームを真のチームとして機能させるのか~ネガティブ・フィードバックの大切さに着目して~

2023.11.6 山口 裕幸(九州大学 教授)

 ビジネスの世界やスポーツの世界で優れた成果を収めるチームを観察していると、「なるほど、だからチームがまとまり、活気にあふれているのだな」と思わせるリーダーの存在を見いだすことが多い。

 もちろん、一人ひとりには個性があるので、そのリーダーの個性を反映したリーダーシップの発揮の仕方がある。優れたリーダーとして評価されている古今東西の歴史上の偉人や現在活躍している人々をお手本にすることは、ひとつの典型的アプローチではある。しかし、どんなに敬い、憧れても、自分自身が手本とする人そのものにはなれないのは自明のことだ。したがって、現実的に考えれば、自分自身の個性や強みを生かしたリーダーシップを身につけることを目指すアプローチが大事になってくる。

 自分らしいリーダーシップを探求するときに肝に銘じておくべきことは、「チームの人間関係を円満に保つ思いやりの態度」と、「チームの目標を達成し成果をあげることについて妥協することなく追究する毅然とした態度」の両者をバランスよく持ち合わせることが、優れたリーダーシップを身につけ発揮するための中核的要件であるということだ。このバランスが適切に保たれていれば、その人らしい個性豊かな独特のリーダーシップ行動でも、部下達に受け入れられ、信頼を集めることにつながる。

 ただ、このバランスを適切に保つことは容易ではない。旧来の組織管理の考え方では、さまざまな規則と職階に基づく権力によって部下を動かし、チームを運営する、いわば支配あるいは統制とも言うべき管理体制が主軸であった。この考え方のもとでは、基本的に目標を達成し成果をあげることに重心を置いたリーダーシップこそが重視されてきた。現在でも、指示・命令によって部下を動かそうとする旧来の、いわば軍隊型のリーダーシップを発揮している管理者は少なくないだろう。

 しかしながら、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性という4つの単語の頭文字をとって作られた言葉で、目まぐるしく変転する予測困難な経営環境を意味する)の時代に、旧来のやり方を踏襲しているだけでは組織の持続可能性が脅かされる事態に陥ることが懸念される。こうした視点から、メンバーとの対話と調整によるガバナンス・統治と呼ばれる管理体制を加味していくことの重要性が認識されてきている。部下とよくコミュニケーションをとり、話を聴きながら、仕事の進め方を調整する取り組みの重視である。こちらは、どちらかと言えば人間関係を円満に保つ思いやりの態度に重心を置くものと言えるだろう。

 また、昨今、コンプライアンスを徹底することに関心が集まり、特にパワーハラスメントの抑制は人権を守る視点からも重視されてきており、部下に対して厳しくコメントを伝えることには十分注意を払わねばならなくなってきている。かつては「ダメ出し」と呼ばれた忠告や注意も、パワハラだと指摘されることを恐れて、伝えることに慎重にならざるを得ない状況にあると言えるだろう。こうした状況に対応するため、円満な人間関係の維持に行動の重心を移すことの重要性を示唆するリーダーシップ論も目立ってきている。

 しかし、言うまでもないことだが、局面によっては、部下に苦言を呈したり、注意をしたりすることも、リーダーの重要な役割のひとつである。パワハラと批判されることを過度に恐れたり、円満な人間関係の維持にこだわりすぎたりして、言うべきことを言えない、あるいは言わないのでは、上述してきた適切なバランスのとれたリーダーシップ行動とはなり得ないだろう。

 問題は、上司や管理者の苦言や忠告を部下がきちんと受け入れるような伝え方ができているか否かであろう。それを実現する基盤としては、普段から、思いやりの態度と目標達成をゆるがせにしない厳しい態度の両方を、状況に適した形でバランスよく行動に表していくことで、部下の信頼を得ていることが大事だろう。さらに、「言い方」「伝え方」の問題も重要になってくる。アサーティブ・コミュニケーションの在り方を参考にすれば(本コラム22回参照)、あくまでもチームの目標達成を見据えて、その部下の働きがどんなに重要なものであるかを踏まえたうえで、叱責ではなく、成長を期待する姿勢に基づく「言い方」「伝え方」が肝心だと言えるだろう。生徒が教師から期待されると、その期待に応えようとして努力を重ね、好成績を収めるようになるピグマリオン効果の研究知見を振り返ってみても、部下に期待することの大切さは心して認識しておくべきだろう。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

関連サービス

関連記事一覧