第112回 セキュアベースであるための核心はリスク・テイキングを動機づけること-「安全基地」的組織を目指して(2)-

2020.02.28 山口 裕幸 先生

 前回は、大学入試制度の変更を来年に控えて、今年の受験生たちが、「なんとか今年で大学進学を決めてしまいたい」と、自身にとって合格する確率の高い受験校を選択する「安全志向」の高まりを題材に、セキュアベース(=安全基地)としての組織および管理者のあり方の重要性について考えてみた。そして、働く人々が職場を安全基地と感じることができるようにする方法として、組織そのものや役職上位者が、部下たちに思いやりを示し、「守られている」という感覚と安心感を与えることで、失敗を恐れずに挑戦し、冒険し、リスクをとる意欲とエネルギーの源になる「セキュアベース・リーダーシップ」の考え方に注目が集まっていることも紹介した。

 そのセキュアベース・リーダーシップは、いかにして構築すればよいのであろうか。ここで明確に認識しておきたいのは、セキュアベース・リーダーシップは、部下たちがリスクを取ることに挑戦する気持ちを呼び起こし、力づけるところに、核心的意義があるという点である。思いやりを示し、受容し、「守られている」という感覚と安心感を与えることは基盤として重要であるが、それだけにとどまって、リスクを恐れず挑戦したり、冒険したりしようとするモチベーションを高めることができなければ、セキュアベース・リーダーシップとはいえないというくらいに考えた方が良いだろう。

 では、部下にリスク・テイキングを動機づけるには、どのようにふるまい、働きかけると良いだろうか。良く耳にするのは、「あとは私が責任を持つから、心配せずチャレンジしてみなさい」と指示をする対応である。もちろん、この言葉は部下にとっては非常にありがたいものだろう。ただ、それだけで十分だろうか。リスク・テイキング行動に関する社会心理学的研究の結果をひもとくと、それ以外にも重要な要因がいくつかあることがわかる。

 特に重要な要因が、過去のリスク・テイキングの意思決定の結果を振り返ったときに、成功が続いているのか、失敗が続いているのか、その成否状況の変化の様相である。成功が続いているとき(=景気が良いとき、調子が良いとき)であればリスク・テイキングは難しいことではない。しかし、逆に失敗が続いているとき(=景気が悪いとき、調子が悪いとき)であれば、どうしても慎重さが増し、リスク回避を選択することがわかっている。1990年代に始まった景気の停滞・低迷からなかなか抜け出せていない我が国の状況を考えれば、失敗する確率が高いのに「挑戦してみなさい」と指示されても、無謀に思えるだけで、心を動かされないという人が多いのは仕方のないことかもしれない。

 ただ、そこで引き下がっていては、いつまでもリスク回避・安全志向のループを脱することはできないことも確かである。リスク回避・挑戦回避に膠着している心理を脱し、リスク・テイキングへと転回させる取り組みがなにかしら必要である。

 有効な手立てのひとつとして、挑戦した結果の失敗については組織として責任を問わない態勢を整えることがあげられる。この手立てに対しては異論もある。失敗しても責任をとらないのであれば、安易で考慮が足りないがゆえに生ずる失敗までが許されてしまって、組織の箍(たが)が緩んでしまうという意見である。確かにそうした懸念はあるだろう。しかし、そうした懸念に縛られて、いかなる失敗も一律に責任を問い処罰するのでは、リスク回避・挑戦回避のループから這い出すことも難しいだろう。皆で縮こまる循環から、勇気を持って挑戦する循環へと舵を切る契機として、セキュアベース・リーダーシップの実践は位置づけられる。

 もちろん、中間管理者たちが、部下たちの勇気をかき立て、挑戦へと動機づけるには、組織全体の意思決定の権限を担う上位者たちが勇気を持って、変革へと踏み出すことが重要な鍵を握る。組織のトップにそうした覚悟ができるかは、消極性・安全志向から積極性・挑戦志向へと組織を変革できるか否かの試金石となるだろう。管理者が、部下たちを信じていることを伝え、失敗を恐れずリスク・テイキング行動へと動機づけるには、具体的にどんな働きかけが有効なのだろうか。次回はそうした観点から議論を続けることにしたい。

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