第169回 時代を超えて効果的リーダーシップの中核にあるもの~変革型リーダーシップ論を踏まえて~

2025.1.10 山口 裕幸(京都橘大学 特任教授)

組織も「歳」をとる

 組織も集団も形成されたばかりのときは、活動をうまく軌道に乗せることが大きな課題である。この時期は、メンバーたちは自分がどのように動けばいいのかがはっきりしないことも多く、リーダーからの指示を期待する時期といえるだろう。この時期を経ると、組織は成長を遂げ、メンバーも自ら判断し行動できるようになる。組織は成長の波にのるといえる。

 しかし、その右肩上がりの成長曲線はいつまでも続くわけではない。組織も「歳」をとり、硬直化現象が見られるようになり、必ずといってよいほどマンネリ期を迎えるときがくる。思うような結果が出ないと組織は閉塞感に包まれ、それを打開することを目指した取り組みが行われるようになる。

行き詰まりを見せる組織を再活性化する道筋

 組織の再活性化への道筋は、大きくふたつの方向性が考えられる。ひとつは、既存の活動を見直し、非効率な要因を特定して改善するやり方である。仕事の品質改善に取り組むTQC(トータル・クオリティ・コントロール)活動はその具体的なものにあげられるだろう。PDCAのサイクルを適切に回しながら、職務改善を図る地道な取り組みである。日本ではこの道筋に沿った取り組みが熱心に行われ、成果をあげてきたように思われる。

 もうひとつの取り組みは、既存の活動を根本からやり直すものである。組織変革というとき、こちらを意味することが多い。経営統合や分社化、あるいは社内の組織編成の変更など、既存の枠組みを解体し、新たな枠組みを構築し、創成するところに重きが置かれている。こうした取り組みは、グローバル化が進み、経営環境が急速にしかも大きく変動する中にあって、組織が環境に適応していく方策として重視されてきた。

組織変革のターゲットは何なのか

 組織変革というと、財務の健全化をはじめとして、経営を合理的に改善するために必要な組織構造や制度、規則をターゲットとする変革の取り組みであるように捉えがちである。しかし、成長曲線を描いていた組織の成果が次第に頭打ちになってしまうのは、組織の構造や制度、規則が、時代や社会の変化に適合しなくなってしまうせいばかりではない。むしろ、組織の中でメンバーたちの心理や行動の特性が、時代や社会に追いつかなくなっている場合も多い。メンバーたちが活動の中で相互作用しながら次第に作り上げていく規範や文化と呼ばれる人間的な特性こそが、変革すべきターゲットであると捉える視点は重要である。

変革型リーダーシップのキモを再確認

 1980年代後半から、アメリカを中心に変革型リーダーシップの研究が発展した背景には、グローバル化を迎え、急速に大きく変動する社会において、組織が存続していくために必要な変革を導く影響力とはいかなるものなのか、という関心の高まりがあった。変革型リーダーシップに必要な要素として、卓越した判断力、創造的で価値の高いアイディアの発想力、エネルギッシュであること、勇気があることなど、さまざまに指摘された。しかし、どんなに優れた判断力や創造的アイディアを持ち合わせていても、メンバーたちがそれについて行かなければ、組織変革を実践し、達成することは難しい。最も重要なのは、メンバーが「このリーダーについて行きたい」と感じる人間的な魅力なのである。バス(1985)は、この要素をカリスマ性と呼んでいる。

メンバーが進んで影響を受け入れるのに必要なのはカリスマ性だけか

 変革型リーダーシップを行使しようとしても、メンバーたちから反発を受けて、組織変革に挫折してしまった事例は数多く報告されてきた。やはり、メンバーを惹きつけ変革へと動機づける影響力を発揮できることが必須の課題となる。ただ、カリスマ性が必要となると、変革型リーダーシップの実践には「どうやればカリスマ性は身につくのか?」という疑問と併せて、実現が困難なイメージがつきまとってしまう。カリスマ的な影響力という絶対的な力を持たなくても、メンバーが進んで変革に参画することを動機づけるリーダーシップはないものだろうか。

 そうした議論は紆余曲折を経ながら、近年では「対話と調整」に軸足を置いたリーダーシップへの注目が集まっている。リーダーは活動の方針、ビジョンを提示しつつ、メンバーたちの意見の発露を促進し、それによく耳を傾け、対話によって協調体制を構築していく取り組みである。地道ではあるものの、メンバーたちからの信頼に基づいて持続可能な組織作りを進めていくことは、時代を超えて効果的なリーダーシップの中核であるといえるだろう。

【引用文献】
Bass, B. M. (1985). Leadership and Performance beyond Expectations. Free Press: New York.
※先生のご所属は執筆当時のものです。

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