第138回 リーダーシップの社会心理学(2) 〜再考:どんなリーダーがメンバーから高く評価されるのか〜

2022.05.31 山口 裕幸(九州大学 教授)

 前回は、組織や集団を外部から評価する際、対象とする組織・集団の活動が、成功(良好)であれ、失敗(不調)であれ、その原因はリーダー・管理職のリーダーシップに帰属される傾向(バイアス)が強くなることを指摘したリーダーシップ幻想論について紹介した。では、視点を入れ替えて、組織や集団の内部、すなわちメンバー・部下達がリーダーや直属の上司のリーダーシップを評価する際には、特にこれといった認知バイアスは働かないのだろうか。実のところ、メンバーからのリーダーシップ評価にも、一定のバイアスが働くことがわかっている。

 古典的なリーダーシップ研究では、どのようにリーダーが振る舞い、行動すると、メンバー達はそのリーダーシップを高く評価するのか、という観点から検討を加えていった。これらは、行動アプローチと呼ばれ、多様な研究が活発に行われてきた。その結果、目標達成を志向する行動と、メンバーの心理を配慮し人間関係を円満にすることを志向する行動の2つを高度に両立させることが、優れたリーダーシップを発揮しているとメンバーが評価する際の核心であることを指摘する理論が広く認められるようになった。代表的な理論として、三隅二不二(1984)によるPM理論や、ブレイクとムートン(Blake & Mouton, 1964)によるマネジリアル・グリッド理論がある。

 これら行動アプローチは、リーダー行動が原因となってメンバーからの評価に帰結するという枠組みに基づいている。しかしながら、リーダーのリーダーシップに関する評価は、リーダー行動以外の要素によって決まることも多い。特に集団パフォーマンスの優劣は強い影響を及ぼすことが確認されている(古川, 1972)。古川の研究では、中学1年生からなる集団を作り、集団内で協力して課題を遂行する際に、大学生が指導者(リーダー)の役割をする場面を設定した。その大学生はどの集団に対しても同じリーダー行動をとる一方で、集団活動の終了後、そのパフォーマンスについて、集団によって①「優れている」と伝える、②「劣っている」と伝える、③「何も伝えない」の3通りのフィードバックを行った。このフィードバックの終了後、メンバーである中学生が指導者である大学生のリーダーシップをどのように評価したのか、回答を求めた。

 リーダー行動に客観的な違いはなかったにもかかわらず、中学生が行った指導者のリーダーシップ評価は、集団パフォーマンスの優劣によって強く影響を受けていた。つまり、集団パフォーマンスを「優れている」と伝えられた集団のメンバーは指導者のリーダーシップを高く評価したのに対して、「劣っている」と伝えられた集団のメンバーは低く評価するコントラストが見られたのである。要するに、メンバーが行うリーダーのリーダーシップに対する評価は、観察されたリーダー行動以上に、集団パフォーマンスの優劣に基づいて行われる可能性があることを、この研究結果は示している。

 さらには、個人はその経験に基づいて「優れたリーダーシップとはこのようなものである」という枠組みを、暗黙のうちに自分の中に創り上げていることにも注目したい。この枠組みはリーダーシップ・プロトタイプと呼ばれる。そして、日々の生活の中で観察されるリーダーの様々な振る舞いを、このリーダーシップ・プロトタイプに当てはめ、しっくり当てはまれば高く評価し、ズレが大きいと低く評価する。日々見聞する事例や経験に基づいて、自分が保持するプロトタイプを強化したり、時には多少修正したりしながら、次第に確固たるものへと創り上げていく。リーダーシップ・プロトタイプは、各人のリーダーシップ観の基盤であり、リーダーシップを評価するときの物さしになると言えるだろう。そして、この主観的な物さしに適合するか否かは、リーダーシップを評価する認知プロセスに一定のバイアスをもたらすことになる。

 「リーダーとして具体的にいかに振る舞うか」ということ以上に、メンバー・部下達の認知のあり方次第でリーダーシップの効果が決まりうること、さらには結局のところ、成果の優劣に基づいてリーダーシップ評価がなされることは、リーダーシップを絶えず問われている組織の管理職にとっては、自分のリーダー行動を考えるときの難しさを改めて考えさせる研究知見だと言えるだろう。ただ、特定の振る舞いを繰り返すだけでなく、それがメンバー達にどのように受け取られているのか確認しながら、時には率直にメンバーの意見に耳を傾けることで、より効果的なリーダーシップの発揮につながることを心の片隅に置いておくことは意味のあることだろう。

【引用文献】
Blake, R. R., and Mouton, J. S. (1964). The managerial grid. Houston: Gulf. (上野一郎訳 (1964). 『期待される管理者像』 産業能率短期大学出版部)
古川久敬. (1972). 成功あるいは失敗評価がフォロワーのモラールおよびリーダーシップ機能認知に及ぼす効果. 実験社会心理学研究, 11(2), 133-147.
三隅二不二. (1984). 『リーダーシップ行動の科学(改訂版)』 有斐閣
※先生のご所属は執筆当時のものです。

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