第126回 リモートワーク時代の職場のチームワークを考える(2)~難局・危機的状況に立ち向かう管理職のリーダーシップ~

2021.05.31 山口 裕幸(九州大学 教授)

 前回、コロナ禍にあって、リモートワークのデメリットを克服するには、組織や職場に心理的安全性を構築することの大切さについて論じた。今回、心理的安全性構築の基盤であるチーム・コミュニケーションの機会の維持・確保に向けた管理職のリーダーシップについて考えていくに際して、改めて、コロナ禍という危機的状況において、人々や部下達を正しい行動へと導くリーダーシップとはいかなるものなのかを確認しておくところから始めたい。

 現時点(2021年5月中旬)で、主要都市に3度目の緊急事態宣言が発出される事態になっている。医療状況がきわめて厳しくなり逼迫する中、変異株の感染拡大が報じられ、まさに緊急事態の様相を呈している。そんな中、ワクチン接種の見通しに関する情報は混乱気味で、早く安心したいと願う人々の焦りをかえって煽る結果につながっている。

 他方、緊急事態宣言が発出されても、街中の人の流れは、昨年の同時期のデータと比較して、期待されたほどは減少していないことも確認され、「コロナ疲れ」とか「緊急事態慣れ」が指摘されている。メディアや行政からは、「なぜ人出にさほどの違いが出てこないのか」との疑問が提示されているが、社会心理学的にみれば、コロナ禍が長引くにつれ、その状況に慣れて、リスクを過小評価しがちになるベテランズ・バイアスに加えて、このコラム(第120回)でも話題にした「自分は大丈夫だろう」と勝手に思い込む正常性バイアスも、人々の心理や行動に働いていることが考えられる。

 また「どうすれば感染予防のための外出自粛を徹底できるのか」という問いが投げかけられることもある。この点については、単に罰則を定めたり、人々の良心に訴えかけたりすることを中心とした施策に終始するのではなく、それらと併せて、今後、いかなる段階を踏んで、どのようなスケジュールで通常の生活に戻っていけるのか、その道筋を明瞭に示すことが肝要であるといえるだろう。専門家が「出口戦略」と表現する宣言解除に向けた計画を、的確で現実感のある形にして人々に提示することは、トンネルからの出口を求める人々の行動を導くときの基本的にして最も効果的な働きかけだと考えられる。

 ただ、的確で現実感のある出口戦略であっても、それに不満を訴えたり、耳を貸さない態度をとったりする人々がいることも想定される。ベテランズ・バイアスや正常性バイアス、さらには個人の自由や利益を制限されてしまうことへの心理的リアクタンス(反発)の影響は、無自覚のうちに働き、人々の行動選択に根深く作用するものである。そこで大事になるのが、働きかける側のリーダーシップである。どんなリーダーシップなのかと言えば、その答えは極めてシンプルである。それは、人々と一緒になってこの難局に立ち向かっていることを、言葉だけでなく行動で示すことである。それが人々や部下達から受け入れられる影響力を生み出す。

 職場づきあいや職務遂行の場面では、「そう言われても、簡単に承知するわけにもいかないなぁ」という依頼や指示を上司や先輩から受けることが時々あるものである。そんな状況におかれたことのある自身の経験を振り返ってみてほしい。権力を持つ職位の上位者からの依頼や指示だからと不本意でも泣く泣く受け入れることばかりだろうか。もちろん、そんなこともあるだろう。ただ、これまでに付き合いのあった上司や先輩の中には、多少無理なことを頼まれても、「この人がいうのだから、頑張ってやってみるか!」という気持ちで受け入れることのできる人もいたのではないだろうか。

 リーダーシップの本質、神髄は、人々や部下達が、自分たちの先頭に立って、ともに闘っている人であるという認識を持つことによって生まれる影響力である。組織にあっては、管理職という立場につけば、自ずと自分自身が動くと言うよりも、部下達に動いてもらうべき職務がほとんどになる。職位が上位になるほどに強い権限、権力が伴うのも、その難しい「人を動かす」力を補助するための工夫である。ついつい、そうした権力に依存した指示・命令型のリーダー行動ばかりをとっていると、部下達は動かされる存在としての自己を受け入れてしまい、自律的な判断や行動は影を潜めるようになる。そうなるとさらなる強権を振りかざすことを選択する管理職も少なくないが、それは逆効果で、部下達は指示・命令なしでは、さらに動かなくなってしまう。

 リーダーシップは影響力である。その本質は、英語で表現するとpowerというよりもinfluenceのニュアンスで捉えておくべきものと考えた方が良い。リーダーシップ研究が繰り返し指摘してきているように、リーダーがその影響力たるリーダーシップを獲得し発揮するには、部下達を指示・命令で動かすべきときと、部下達の考えを聴き、その自律性を尊重すべきときとを、的確に見極めて自らの行動を選択していくことが大事である。この判断がちぐはぐでも影響力にはつながらない。指示・命令すべきときと部下達の意見、自律性を尊重すべきときを識別して、状況に適した判断をぶれずに行うには、常日頃から、部下達の考えを聞き、自分の考えを伝え、議論する取り組みを欠かさずにいることが鍵を握る。なぜならば、その議論、コミュニケーションの中に、今、いかなる判断をすべきかを教えてくれる手がかりが、ふんだんに含まれているからである。

 管理職に昇進するには、それだけの実績と能力への周囲からの期待の裏付けがあるだろう。自信を持つことは大切である。ただ、難局にあって、誰もが苦しいときに、自分の判断に部下達が一緒についてくる組織、職場に作り上げるには、本質的なリーダーシップを備えておくことは不可欠の要素と言って良い。そして、その本質を突いたリーダーシップを備えるための取り組みは、何を差し置いても、部下達とのコミュニケーションにある。コロナ禍にあって、従来型の対面状況でのコミュニケーションの機会が少なくなり、リモートでのやりとりが増えつつある今、部下達との意見交換、議論を活性化するにはどんな工夫がありうるのか。次回は、その課題について考えてみることにしたい。

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