第31回 チーム力、組織力とは何かについて考える(6)-ミッションの共有への取り組み-

2013.01.08 山口 裕幸 先生

 自らの目指す理想の自己像を明確にすることは、個人にとって、実現したい未来を現実のものにしてく足取りを確固たるものにするうえで重要である。それがプロアクティブ行動の基盤であることは前回述べた通りある。一人ひとりがプロアクティブに行動できることは、組織やチームにとっても望ましいことに違いない。しかしながら、個人の抱く理想の自己像は、個々に異なるのが当然だ。組織やチームは、異なる多様な将来像を思い描く個人が共存する集合体である。プロアクティブ行動を実践できる一人ひとりの力を、組織やチームの全体の力に束ねあげる働きかけが必要である。そうした働きかけがあって初めて、成員個々がプロアクティブに行動できることが、組織レベル・チームレベルの成果に結びつくようになる。

 個々の力を全体の力に束ねあげるマネジメントは、個々に異なる将来像を、ひとつに収斂させる取り組みを意味するわけではない。「あなたの抱く理想的自己像よりも、こちらの方が優れているから、こちらの自己像を目指しなさい」などと言われて、「はい。そうします。」と答える人はいないだろう。誰がなんと言おうが、自分の理想的自己像はその人自身のものである。個人として目指す理想の自己像を操作しようとするのは、別人になれと言うようなもので、所詮無理である。

 個人の目指す将来像は個々に尊重し合いながら、組織やチームの全体として目指す理想の将来像を明確にして、それを皆で共有することが、個人レベルのプロアクティブ行動を、全体の成果に束ねあげるマネジメントの「キモ」である。将来、自分たちは、組織として、チームとして、どのような存在になりたいのか。何を成し遂げたいのか。その目指す姿はミッションと呼ばれる長期的な目標である。

 チーム・ビルディングを考えるとき、このミッションを明確にすることは必須の工程となる。長期的目標であるミッションの達成は一気に成し遂げられるわけではなく、一段ずつ階段を上るようにして進んでいく。その上る階段の一段一段がゴールと呼ばれる短期的な目標である。ミッションを意識しないで日々の仕事に追われていると、目前の短期的な目標の達成に躍起になるあまり、ミッションがかすんでしまい、方向性がブレ出すことも起こりがちである。ミッションを達成するために、ひとつひとつのゴールが設定されるようにマネジメントを工夫する必要がある。

 ミッションの設定は、その気になれば難しいことではないだろう。しかし、個人の場合と同様、「理想の将来像」を抱いているだけでは不十分で、その実現に向けて行動を起こし、実践を積み重ねることが大切である。その実践こそが難しい。組織やチームの場合は、「ミッション設定」と「その達成のための実践」の工程の間に、「メンバー皆によるミッションの共有」のプロセスが必要であることも忘れてはならない。絶えず自分たちのミッションはいかなるものなのかを意識し合い、明確にしていく取り組みが、ミッションの共有を実現するためには重要だ。

 組織やチームの皆でミッションを共有していく方法としては、朝礼の際に全員でそれを唱和することがポピュラーなものとしてイメージされる。もちろん、その効果は小さくはないだろう。しかし、単にトップダウン的にミッションを唱和させるだけでは十分ではない。「やらされ感」を覚え、他人事のように感じ、ミッションに心理的距離を置く人が出てくる可能性があるからである。むしろ、ミッションに関して各自が思うことを率直に発言し、他者の意見を聞く機会を繰り返し持つことで、組織やチームのミッションを自分自身のものとしていく取り組みを加えることが効果的だ。

 特に何かを決定するわけでもなく、率直に各自の考えを述べ、お互いに聞く話し合いの機会はダイアローグと呼ばれる。この機会を持つことで、それぞれに考え方には違いがあっても、お互いに他者の考えを理解し、次第に認めあうことができるようになる。そのうえで、組織として、チームとして、皆で目指す将来像を語り合うことで、ミッションの共有が進むのである。ミッションを共有していく活動は、広くとらえれば「チーム学習」と呼ばれる活動である。持続的な成長を目指す「学習する組織」を作り上げるための基軸となる取り組みのひとつが「チーム学習」である。

 チーム・コミュニケーションのあり方が、チーム学習の成否に強く関わってくることは言を俟たない。ミッションを皆で共有するためのチーム・コミュニケーションはいかにあるべきか、引き続き、次回、考えていくことにしたい。

<引用文献>
堀公俊・加藤彰・加留部貴行 (2007). チーム・ビルディング-人と人を「つなぐ」技法 日本経済新聞出版社

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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