第128回 リモートワーク時代の職場のチームワークを考える(4) ~「失敗から学ぶ組織」作りを支えるリーダーシップとは~

2021.08.06 山口 裕幸(九州大学 教授)

 前回は、チームで新たな取り組みに挑戦することを動機づけるには、失敗を過剰に恐れなくてもよいという確信を皆で共有できるようにしていくことが大事であることを指摘した。それは心理的安全性を組織やチームに醸成することを目指した取り組みに他ならない。リスクに怯えることなく挑戦する組織やチームを構築するには、リーダーは、メンバーの話に耳を傾け、自分の知識の限界を認め、失敗から学ぶ態度を重視することが鍵を握る。

 とはいえ、管理職に就くことは様々なことがらを統制し管理する権力を持つことを意味する。そういう立場に立つと、ついついメンバーの話に耳を傾けるよりも、自己の見解、判断に従うように説得、あるいは指示、命令する行動を主流とするスタイルに終始してしまいがちである。人それぞれの個性もあるだろうが、筆者の日頃の経験に基づけば、ベテランになるほど、そして職位が高い人ほど、他者の話を聴くことよりも、自分の話をする(聞かせる)ことに重心がかかってしまう傾向があるようだ。

 自分の方が年長であったり、職位が上だったりすると、相手の話を聞くことの大切さは頭ではわかっているのに、ついつい自分が話したくなり、気がつくと自分ばかりが話している状況に気づいた経験のある人は少なくないだろう。この無自覚のうちに走り出してしまう「自己発話優先傾向」を克服して、聴くことと話すことをバランス良く行い、発話のキャッチボールができるようにしていくには、どんな工夫があるだろうか。

 ひとつには、メンバーの話を聴く機会を定例のイベントとして設定することがあげられる。互いのスケジュールを確認しあい、調整し合って、できるだけ定例的に行うようにするのである。なお、このイベントは、複数のメンバーを集めて行うことも可能であるが、話を聴く習慣を体得することを目的とするならば、一人のメンバーとの対話の機会をつくる「ワン・オン・ワン(One on One)」のスタイルが有効だろう。Google社における成功例は有名であるが、我が国でもYahoo!社の成功例が報告されている。

 ワン・オン・ワンを実施することは、メンバーにとっては管理職やリーダーと対話できることだけでも、コミュニケーションの深まりを実感でき、職務モチベーションを高める効果につながりやすい。ただ、せっかくの機会をリーダーが一方的に話をする場にしたのではもったいないことは、上述してきた話の流れで理解していただけるだろう。やはり、日頃メンバーが感じたり思ったりしていることを話してもらい、メンバーそれぞれの人柄や考え方を知る機会として生かすことが大事だろう。メンバー一人一人の話を聴き、話のキャッチボールができれば、自ずと管理職やリーダーの人柄や考え方を理解してもらうことにもつながる。ワン・オン・ワンの具体的な進め方は、図のように整理することができる。

 こうした進め方や質問することがらはあらかじめ手元にメモを作成して、参照しながら進めるとよい。そのとき、「相手の話を聴くことに徹しよう!」という一文を目立つように書いておくことで、ワン・オン・ワンの間、聴くことに意識を集中する一助となるだろう。

 リモートワークが拡大、浸透していくにつれ、バーチャル・チームの形態をとる職場も増えることが想像される。バーチャル環境では、人と人とのつながりを実感できにくくなってしまう傾向が懸念される。健全で活気ある組織やチームへと導くために、今まで以上に、管理職やリーダーがメンバーの話を傾聴する態度を大切にすることが望まれる。幸い、互いにスケジュールを約束しておけば、リモート環境のもとでワン・オン・ワンを実施することは難しくない。傾聴する態度を育み、強化する取り組みの出発点としてワン・オン・ワンを活用してみることも一案だろう。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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