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2015年9月14日(月)

行動観察と社会心理学

第62回 組織の集合知性を育むには(3)-視野の狭まりと広がりがもたらす影響-

 前回、組織を取り巻く環境の変動が、「サイロ化現象」を打破するひとつのきっかけになる可能性について述べた。その環境の変動は外圧と読み替えてもいいだろう。しかし、外圧を待つ受け身の姿勢では、自律的に集合知性を生み出すことは難しいようにも思われる。環境の変化や外圧に類するきっかけを自分たちで生み出すことはできないのだろうか。社会心理学的にこのことを考えてみると、素朴なところにヒントが隠されていることに気づく。

 組織に所属すると個人にはほぼ自動的に何らかの役割が与えられる。この役割には軽重の差はあっても、すべからく「職責」という責任が伴う。このことは、前回紹介した「サイロ化現象」発生の出発点になっている。自分の職責を果たそうと努力することは奨励されるべきことなのだが、効果的な組織マネジメントを考えるとき、留意すべき副作用があることを、「サイロ化現象」の発生は教えてくれる。そして、その副作用は組織の集合知性の構築を難しくしていることも併せて示唆している。

 所属する部署の新入社員が最初の配属先に着任したときをイメージしてみよう。「○○支店経理課第二係勤務を命ずる」という辞令を受けると、自ずと自分の職務内容を確認し、それを全うする責任を感じる。このとき、個人の心の中で行われている行為は、「自分はこの支店の経理課の第二係に所属する人間である」という社会的(=集団の一員としての)アイデンティティーの獲得である。この社会的アイデンティティーの獲得は、「自分とは何者なのか?」という素朴な疑問への回答をもたらしてくれるものであり、ありがたいものである。就職して配属が決まるということは、安定的な収入を得ることが可能になったという意味だけでなく、自分が何者であるかを説明できる基盤ができたという意味でも重要なのである。

 ただし、この配属先への所属意識に過ぎないように思われる社会的アイデンティティーの獲得は、自分の所属する集団を「内集団(in-group)」とみなして“ひいき目”に評価し、それ以外は「外集団(out-group)」に識別して、攻撃的に差別的に扱う心理と密接に結びついてしまう。日常的な表現をするならば、内集団はミウチ、外集団はヨソモノである。注意すべきは、そうした識別だけで終わらず、ミウチをひいきし、ヨソモノを差別する心理が、知らず知らずのうちに自動的に生じてしまうことである。

 このことは、社会的アイデンティティーの獲得と引き替えに、所属する部署の利益を最優先に考えてしまう “視野の狭まり”が生じがちなのだと考えていい。職場では、この視野の狭まりが一時的なものに終わらず、長期に継続されることになりがちである。その結果、所属する部署内でのコミュニケーションに終始し、他の部署との意思疎通や、他の部署や組織外部からの情報には注意を払わなくなるサイロ化現象へとつながっていくことになる。

 このコラムで繰り返し紹介してきたように、個人の心理や行動は、本人もほとんど意識しないうちに無自覚的に生起していることが非常に多い。上記の視野の狭まりも同様である。組織の中の個人は、常日頃から視野が狭まるような影響を受けながら働いていると考えることができる。この視野の狭まりを生み出す影響がサイロ化現象につながるのであることを考えれば、その影響を取り払い、視野の広がりをもたらすマネジメントが重要になってくる。

 所属する部署の利害や自分の職責に視野を膠着させずに、より広い視野で各自の職責をとらえることを促そうと思えば、組織全体で果たしていきたい社会的役割(ミッション)や、実現したい将来像(ビジョン)を明確にして、そのミッションやビジョンを全員で一緒に認識できるように働きかけていくことが大事になってくる。目の前の達成すべき目標(ゴール)を設定することは大事であるが、それと同時に、そのゴールを積み重ねていくことで何を実現しようとしているのかまで明快に示すことが大事になってくる。目前の目標(ゴール)を達成することを重視するあまり、視野の狭まりを招いていることもあるかもしれない。

 今回は、サイロ化現象を克服し、集合知性の基盤を構築するには、まずは個人の視野の広がりを促す取り組みが重要になることについて、個人の心理と行動の特性をふまえつつ、考察して来た。では、どのような働きかけや組織マネジメントが、個人の視野の広がりを促すのであろうか。次回は、その課題について考えていくことにしたい。

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