第172回 合従連衡による多数派形成は紛争を解決に導くか~パワーダイナミクスに関する社会心理学的研究の視点から~

2025.3.28 山口 裕幸(京都橘大学 教授)

社会や組織の主導権争いにおける合従連衡の役割

 社会や組織において、類似した特性を持つ人々が集まり、派閥を形成することはよく見られる。そして、主導権をめぐる派閥間の勢力争いも頻繁に生じる。政治の世界はその典型例であり、国会の主導権争いは法案や予算の決定に大きな影響を及ぼすため、多くの人々の関心を集める。

 1つの派閥が圧倒的な勢力を持っている場合、組織の運営に関する紛争は生じにくい。しかし、単独の派閥では過半数の議席や支持を確保できない場合、複数の派閥が合従連衡(coalition formation)して多数派を形成し、主導権を握ろうとする動きが生じる。

 組織全体の主導権を握るためには、利害の対立だけでなく、政治信条やイデオロギーが異なる派閥同士でも合従連衡が必要となる場合がある。その交渉は困難を伴うが、どのように合意に至るのかが重要な課題となる。

合従連衡をめぐる交渉過程の特徴

 合従連衡の結果を予測する研究はこれまでも活発に行われてきた。社会心理学的観点からも、多くの理論が提示されている(表参照)。

 これらの理論的研究は、主にゲーム理論の視点から、合従連衡に至る交渉の展開を予測するアプローチを取る。そして、理論の妥当性を検証するため、多くの実証研究が行われている。

 これらの理論に共通するのは、自派閥が得る利益を最大化するための合理的な交渉戦略である。典型的な交渉パターンとしては、まず自分の立場の強さを主張し、有利な利益分配を要求した後、相手の主張を受け入れつつ譲歩を行い、最終的に互いに妥協可能な合意点を見出すという流れが一般的である。

 しかし、合従連衡によって得られる利得の種類(経済的利益・地位・権力など)によって、交渉の展開は大きく異なる。また、自派閥以外の派閥が合意に達し、自分が除外される可能性もあるため、どの程度強く主張するかのバランスが重要となる。実際の交渉過程はどのように進み、結論に至るのだろうか。

理論的予測と異なる現実

 研究結果を見ると、理論的な予測通りの結果にならないケースが多く見られる。その理由として、交渉当事者が合従連衡のパートナーを選択する際、客観的な利得の大小だけでなく、好き・嫌いといった主観的な評価を重視する傾向があることが挙げられる。

 筆者がアメリカの研究を再現した実験では、参加者は相手に多くの利益を提案し、合従連衡のパートナーに選ばれようとする傾向を強く示した。一方、アメリカの研究では、より大きな利益が期待できる相手を選ぶ傾向が報告されている。これは交渉行動として対照的であり、文化による価値観の相違が合従連衡の交渉過程に強く影響することを示唆している。

合従連衡による安定は一時的

 合従連衡の形成には、現在の利害関係や考え方の相違だけでなく、過去の経緯や将来の見通しも影響を及ぼす。そのため、どの派閥がどのように連携するのかを予測する際には慎重さが求められる。

 また、合従連衡は一時的な協力関係にすぎず、状況の変化とともに再び解消され、新たな合従連衡の局面へと移行することが多い。これは、不安定な状況を管理するための戦略であるが、恒久的な安定を保証するものではない。むしろ、合従連衡を繰り返すことで、最終的に安定した多数派が形成されるとも考えられる。

 VUCAの時代といわれる現代社会において、建設的な合従連衡は将来の安定した社会の実現につながる可能性がある。「どうせまたくっついたり離れたりする」と嘆くのではなく、発展的な合従連衡の形成に期待したい。

【引用文献】
山口裕幸(2005)組織のパワーダイナミクスに及ぼす連合形成の影響性:実験研究の成果に基づく考察 『組織科学』 Vol.39, No.1, 47-57.

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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