第177回 世代による考え方の違いから生まれる組織内葛藤を克服するマネジメントを考える ~ 社会的アイデンティティ研究を参考に ~

2025.9.3 山口 裕幸(京都橘大学 教授)

新しい世代の考え方を理解し活かすことが組織のあり方を変えていく

 「Z世代」という言葉を耳にする機会が増えてきた。その前の世代はミレニアル世代、さらにその前はジェネレーションXと称される。我が国でも「ゆとり世代」「新人類」「しらけ世代」「団塊の世代」など、その時々の若者達をカテゴライズしてラベルを貼る行為は見られてきた。それぞれの世代の特徴については、HRpro社がわかりやすく整理した表が参考になる。
( https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3801 )

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 従来から、世代間の考え方の食い違いが生み出す葛藤は、組織マネジメントを難しくする要因として注目されてきた。かつては年長者や管理職が無理矢理にでも自分の考えを若手に教え込もうとするスタイルが通用した時代もあったが、今日ではそんな力業は受け入れられなくなってきた。人手不足の問題もあって、Z世代の特徴を理解し、組織の戦力として活かす人的資源マネジメントが重要課題となっている。若い世代の考え方が、組織のあり方に変化をもたらしているのである。

気をつけたいステレオタイプ的認知

 若い世代の考え方を尊重して人的資源マネジメントを行うことは、組織の持続可能性を維持し高めるためにも有効なアプローチである。しかし、注意すべきは、誰もが持っている「ステレオタイプ」に基づく自動的な認知過程がもたらす影響である。若い世代のことをよく知ろうとして、WEBや口コミで「Z世代の特徴は〜」といった情報を収集することは一般的だが、その情報を基に「世代全体はこうだ」と一括りにしてしまう危険がある。

 自分なりの固定的な観念や知識体系であるステレオタイプに個々人を当てはめて評価する「ステレオタイプ的認知」は、自分でも気づかないうちに働く認知バイアスの一種である。我々は自分の経験や得られた情報に基づいてステレオタイプを構築する行為は「ステレオタイプ化」である。そして、それに基づいて対象を一括りにして紋切り型の認知をすることがステレオタイプ的認知である。こうした自動的認知過程は偏見と結びつきやすく、効果的な人的資源マネジメントを妨げる可能性がある。

縦糸を紡ぐコミュニケーションの活性化が効果的な人的資源マネジメントの鍵

 同じ時代に生まれ、生活してきたもの同士には類似した考え方が自然と共有されるものだろう。その共有はコミュニケーションを通して実現される。生まれた時からコンピュータやスマートフォン、タブレット端末等のデジタル機器が身の回りにあった若い世代にとっては、オンラインでやりとりするコミュニケーションが身近で信頼がおけるものである。他方、50才以上の世代にとっては、テレビや新聞が身近で信頼のおける情報源である。

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 異なる世代同士が交流する際、つい相手を「世代」という枠組みで一括りにしてしまいがちである。タジフェル&ターナー(1979)の社会的アイデンティティ理論によれば、人は自らの属する世代を「内集団」、それ以外を「外集団」とみなし、偏見や対立を伴う傾向があることが実証されている。この自動的に働く認知システムは、世代を超えた相互理解と協働を阻害する。

 加えて、同じ世代に属していても、一人ひとり異なる価値観を持ち、自分の考えを尊重してほしいと願っている。世代ラベルだけで理解したつもりになることは危険であり、個人の考えを尊重する姿勢が不可欠である。しかし世代を超えた理解は容易ではなく、多くの困難を伴うことも忘れてはならない。

 この困難を乗り越える鍵はコミュニケーションである。同世代内で価値観を共有する「横糸」のコミュニケーションに対し、異なる世代間で理解を深めるには「縦糸」のコミュニケーションが必要だ。そのためには、相手の話を聞こうとする姿勢を醸成することが重要である。とりわけ年長者や管理職にとっては、自らが話し手となる機会が多いため、当初は違和感があるかもしれない。しかし、まずは若い世代の率直な声に耳を傾け、その考えを理解する姿勢が大切である。


【引用文献】
Tajfel, H., & Turner, J.C. 1979 An integrative theory of intergroup conflict. In S. Worchel & W.G. Austin (Eds.), The Social Psychology of Intergroup Relations. Monterey, CA: H., Billig, M., Brooks-Cole.
HRプロ. 「Z世代」の意味や年齢とは? 特徴や価値観なども詳しく解説 https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3801

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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