第179回 優れたパフォーマンスを達成するチームづくりの要について考える

2025.11.7 山口 裕幸(京都橘大学 教授)

チームの力量は投入される資金規模によって決まるのか

 今回は、スポーツの秋にちなみ、プロスポーツを題材として、優れたチーム力を備えたチームをどのように作り上げていくか、その道筋について考えてみたい。

 一般によく耳にするのは、「年俸の高い選手を多く集めたチームほど優れたパフォーマンスを示す」という見方である。「年俸の高いスーパースターを多数擁しているのだから強くて当然だ」という考え方だ。大谷選手・山本投手・佐々木投手が活躍するロサンゼルス・ドジャースは、その代表的な例と言えるだろう。日本のプロ野球でも、福岡ソフトバンクホークスや読売ジャイアンツに対して同様の見方がなされることがある。

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 しかし、果たしてそれは的を射た見方なのだろうか。チーム力を考える際、優れた能力を持つメンバーを多くそろえることは確かに重要な要素である。だが、チームとはいかなる要素で成り立っているのか。堀・加藤・加留部による図を参照すると、チームが目標を達成するためには、メンバーの力量だけでなく、目標やゴールを明確にすること、活動方針や規律に関するルールを整備すること、連携し協力し合うプロセスを整えることなどが、重要な構成要素として挙げられている。とりわけ、ゴールに向かって連携・協力するプロセスを整えることは、優れたメンバーをそろえることに劣らぬほど重要である。

 すなわち、優秀な選手を集めることに多額の資金を投入しても、目標を達成できるチームを必ずしも作り上げられるとは限らない。各メンバーの能力や努力をチームの成果へと結びつけていくマネジメントの重要性を見落としてはならない。

監督のマネジメント力はチームの力量をどのくらい左右するのだろうか

 プロセスの重要性を踏まえると、注目すべきは監督のマネジメント能力である。チームの成績の良し悪しは、しばしば監督の力量に帰属(理由づけ)されやすい。こうした傾向は「リーダーシップ・ロマンス」と呼ばれることもあり、一種の認知的バイアスとして知られている。

 この影響を受けて、他の要因を軽視し、監督のマネジメント力のみに原因を求めてしまうと、本来のチーム強化の方向性を見誤るおそれがある。このことは、ビジネスチームにおいても同様に当てはまる。
 確かに、管理職やリーダーのマネジメント力が重要であることは論を俟たない。しかし一方で、メンバー構成、職務遂行に関するルールや方針、目標の明確化といった要素にも目を向け、バランスの取れたチームづくりを行うことを忘れてはならない。

目標達成の先にあるミッションを明確に意識することの大切さ

 先に示した図を見ると、チームの活動はゴール(目標)の達成で終わるのではなく、その先にミッションの実現が位置づけられている。ゴールは目の前の達成すべき目標であり、ミッションは、ゴールを達成し続けることで実現するチームの理想像と言える。

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 個人のレベルに置き換えると、日々の生活の中で一つひとつの目標を達成しながら、自らの理想とする姿に近づこうとする「自己実現の欲求」が、チームにおけるミッションの実現に相当する。

 目の前の目標を一つひとつ達成することは言うまでもなく重要だが、それを積み重ねることでどのようなチームを作り上げていくのかという将来像を明確に持ち、メンバー全員で意識化・共有することが、持続的なチーム力の向上につながる。その結果として生まれるチーム力は、チーム固有の特性、すなわち「チームカラー」となり、メンバーが入れ替わっても受け継がれていく。

 メンバー、リーダーシップ、方針、連携のすべてが重要な要素であるが、それらを健全な形で生み出す根幹には、明確なミッション設計がある。その意義に、改めて目を向けておきたい。


【引用文献】
堀 公俊・加藤 彰・加留部 貴行(2007)『チーム・ビルディング―人と人を「つなぐ」技法』日本経済新聞出版社

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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