第175回 ストレスに悩む管理職の気構え転換戦略 ~ 問題解決型のストレス対処から情動焦点型のそれへ ~

2025.6.26 山口 裕幸(京都橘大学 教授)

なぜ管理職は「罰ゲーム」とまで比喩されるのか:その理由を考える

 管理職になるとさまざまな局面で自制しなければならないことが多くなり、感じるストレスも強くなる一方である。前回紹介したように、管理職は「罰ゲーム」と比喩されることもあるほどだ。今回は、そんな管理職が悩まされるストレスに対して、どのように対処すると良いのかを考えてみたい。

 まずは、管理職がストレスを感じる原因について整理しておこう。さまざまな原因が考えられるが、主なものとして、以下のような点が挙げられる。

自己の業務に関する負荷
 ①責任の重さ、②業務量の増加、③自部署のマネジメントにかかる時間と労力

部下との関係における課題
 ④コミュニケーションの難しさ、⑤部下の成果が上がらないこと、⑥失敗への対応の難しさ、⑦部下間の人間関係の調整

組織内の立場上の葛藤
 ⑧上層部と部下の板挟みになる状況

 このように、多岐にわたるストレス要因に日常的にさらされると、ただ耐え忍ぶことにも限界がある。しかし、そのフラストレーションを感情的にぶつけてしまえば、かえって状況を悪化させるだけである。では、どうすればよいのだろうか。

ストレスに対処する2つの基本方略
 まず前提として、ストレスによって心身に明らかな不調が表れている場合は、迷わず心療内科を受診するか、産業医やカウンセラーに相談してほしい。強い、あるいは慢性的なストレスは健康に深刻な影響を与える可能性があるため、慎重な対応が求められる。

 さて、何かストレスを感じるような状況に陥ったとき、それに上手に対処する方略は、基本的に大きく2つに分類できる(Lazarus & Folkman, 1984)。

1.問題解決型対処方略
 問題の原因を明確にし、状況を変えたり、他の解決方法を探ったりする方略。ストレスの源を直接的に解決することを目指す、いわば「正攻法」ともいえる対処方法である。

2.情動焦点型対処方略
 問題に伴う情動反応をコントロールし、精神的な苦痛を軽減する方略。場合によっては、状況から一時的に距離を取ることも含まれる。問題自体の解決ではなく、認知の仕方を変えることでストレスの影響を和らげる、いわば「創意工夫による対処」といえる。

 ここで大切なのは、管理職が直面するストレスの原因となっている問題は、その管理職個人にとって解決可能なものなのか、についての見極めである。解決できる問題なのであれば、上記の「問題解決型」方略で対処することで、ストレスの源泉を断ち切ることができて効果的である。しかし、解決できる問題ばかりではないだろう。いくら管理職個人が頑張っても、そもそも解決することが難しい、あるいは不可能な問題に対して、「なんとか解決しよう」とすれば、その無理な態度がさらなるストレスを生むことに繋がる。自分には解決できない問題に拘泥して悩むよりも、あえて「仕方がないことだ」と状況の認知の仕方を変えることで、ストレスと上手に付き合う選択肢も重要になる。

必要以上に自分を責めない「気構え」の転換の重要性
 ラザルスらは、ストレスが原因に対して自動的な反応として起こるのではなく、その原因を個人が認知して評価することで生じることを指摘している。対処方略はさらに細分化できるが、基本は上記の2つであることと、個人の認知と評価が重要である点を踏まえて、具体的な対処法について考えてみると、鍵を握るのは管理職の「気構え」の転換とも呼べる認知・評価の仕方の変革にあると考えられる。

 例えば、自部署のマネジメントがうまくいかないとき、多くの管理職が自責の念に駆られる。しかし、集団を一つの目標に向かってまとめていくこと自体、そもそも非常に難しい課題である。そのように捉え直して、うまくいかないからと言って嘆いたり、苦しんだりする必要はないと気構えを転換させれば、ストレスを緩和することに繋がる。

 また、部下との関係に悩むことも多いだろうが、人間関係には相性や個性があって、すべての部下から慕われ、信頼されることを目指すのは現実的ではない。部下みんなに信頼され支持されることは究極の難問であると認識して、逆に、1人でも2人でも支持してくれる部下がいることのありがたさの方に注意を向けることで、ストレスを緩和することができる。場合によっては、「織田信長や豊臣秀吉、徳川家康といった名将ですら、部下からは煙たがられたものさ」とうそぶいてみるのも、気持ちを軽くして、ストレスの緩和になるかもしれない。

 管理職として感じる多様なストレスと上手に付き合っていくには、真正面から問題解決に向き合うことだけではなく、時には自分の気構えを転換して、情動焦点型の対処方略も加えていくことが有効であるといえる。

【引用文献】
Lazarus, R.S. and Folkman, S. (1984). Stress, Appraisal and Coping, Springer(『ストレスの心理学 認知的評価と対処の研究』 (著)リチャード・S.ラザルス & スーザン・フォルクマン、(監訳)本明寛、実務教育出版、1991年)

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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