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2015年5月14日(木)

行動観察と社会心理学

第58回 会議の社会心理学(7)-話し合えば情報共有できるという幻想の罠-

 職場の会議は、職務を円滑に遂行できるように、メンバー全員で同じ情報を共有しておくことを目的とすることも多い。一堂に会し、顔を合わせながら、同じ情報に接するのであるから、参加者全員が、そこで提供された情報を共有することは、ごく自然なことに思われる。居眠りをしたり、スマートフォンの操作に夢中だったりしたのであれば、論外だろうが、話し合いをすれば、参加者間で情報が共有されるというのは、特にハードルの高い願望ではないように思われる。

 しかしながら、この願望は必ずしも叶うとは限らないことが社会心理学の研究で実証的に明らかにされている。しかも、人間の基本的な認知メカニズムが、この情報の共有を難しくしている可能性が高いことも指摘されている。「話し合ったからのだからみんなで情報を共有できたはずだ」と安易に思い込むのは、むしろ幻想に近いと考えた方が良いほどである。

 話し合いによってメンバー間の情報共有が成立するとは限らないことは、ステイサー(Stasser, 1988 )が「隠されたプロフィール(hidden profile)」現象と読んで、一連の実験研究を行っている(Stasser & Titus, 1985, 1987;Stasser, Taylor, Hanna, 1989)。例えば、ステイサーとタイタスが1985年に報告した研究で実施した実験は以下のようなものであった。

 彼らは、4人からなる大学生の集団を作って、学生自治組織の会長を選出するために話し合いをする状況設定のもとで実験を行った。会長候補者はX、Y、Zの3人がいて、各候補者の性格や能力、学生生活の様子などの特性16個が記載されたメモが、話し合いをする前にあらかじめメンバー各自に渡された。16個の特性のうち、会長にふさわしい長所が、Xには8つ、YとZには4つ書かれていた。そのままならXが会長として好ましいと判断される状況からスタートするわけである。

 ただし、メンバーへの情報の与え方は2通りに操作されていた。ひとつは全員に同一の情報を与える共有条件である。もうひとつは、Xの持つ8つの長所については2個ずつ4人のメンバーに分散して与えるのに対して、Yの持つ4つの長所は4個すべてを4人全員に与える情報提供の仕方であった。これは非共有条件と呼ばれた。非共有条件には、Zが持つ4つの長所については、1個ずつ分けて4人のメンバーに与える条件も加えられていた。

 結果であるが、まずは論理的に推論してみよう。話し合いをする前の段階で、共有条件では4人全員が同一の情報、すなわちXは8つの長所を持ち、YとZは4つの長所を持つことが知らされているわけであるから、この時点で投票をすれば、候補者Xへの投票が多いと予測される。実験結果は、Xへの投票の割合は67%であり、Yへの投票は17%で、予測通りのものであった。

 他方、非共有条件の場合、Xの長所8個は、2個ずつに分けられて4人に分散されているので、話し合いをする前の段階では、個人レベルではXの長所は2個しか知らない状況にある。ただし、Yについては4個の長所が全て知らされている。また、Zについては、4個の長所は1個ずつに分散されているので、個人レベルでは1個の長所しか知らないことになる。すなわち、非共有条件のもとでは、話しあいをする前の段階ではYが一番多くの長所を持っているように認知するように情報提供を行っているわけである。この条件では、Yへの投票が一番多くなると予測された。そして実験の結果でも、Yへの投票が61%で、Xへの投票は25%で、予測通りとなった。

 さて、Xの長所が2個ずつ4人に分散されていた非共有条件だが、4人が話し合いをして、情報交換をすれば、情報の共有が進み、話し合いのメンバーはXの長所が実は8つあることに気づくと考えられる。実験の結果は上の表に示すとおりであった。論理的に考えれば、話し合いの前には、Yへの投票が多くても、話し合いをした後は、Xへの投票が最多になると予測される。しかしながら、実験の結果は、この予測とは逆に、話し合いの後でも、Yへの投票が75%と最多であり、Xへの投票は20%と少ないままだったのである。

 ステイサーたちは、話し合って情報を交換しても、最初に与えられた情報に基づいた選択をする者が多かったことを指摘し、Xの持つ多くの長所(のプロフィール)は隠されてしまったのも同然であると考え、こうした現象を「隠されたプロフィール」と名づけた。それにしても、なぜ、こんな現象が起こるのだろうか。

 社会的認知に関する研究が発展する中で、人間は、初めに自分が保持していた情報に備わっている特性の方を重視しがちで、後から獲得した情報は活用されにくいことがわかってきた。この認知様式は「係留と調整(anchoring and adjustment)のヒューリスティック」と呼ばれる。理屈には合わないことなのだが、我々は、もともと持っていた知識や情報は重視して、様々な判断をするときに参照するのだが、直前に入ってきた新たな情報については軽視して、知らず知らずのうちに判断に生かさない傾向を強く持っているのである。つまり、話し合いの前に初期情報として獲得した「(非共有条件における)Xの長所は2つ、Yの長所は4つ」という情報の方が、投票に際して重視されてしまって、話し合いで交換された情報の方は軽視されてしまったと考えられるのである。

 夏山登山を案内するベテランガイドが、出発後に発生したゲリラ低気圧のせいで、目の前で天候が急速に悪化して行くのにもかかわらず、出発前に天気図を見て、多少の崩れはあっても今日の天気は概ね良好であると確認したために、「大丈夫なはずだ。出発前に天気図を確認した」と思い込んで、登山を継続してしまい、事故につながった事例もあるほどである。

 今回、話し合いをすれば情報は共有できるという素朴な信じ込みは、必ずしも正しくないことを理解してもらおうと考え、「隠されたプロフィール」の実験について紹介してきた。話し合いをして情報を共有することの難しさは、他にも実証されてきている。次回も、もう少し、このトピックで話しを進めることにしたい。

【引用文献】
Stasser, G. (1988). Computer simulation as a research tool: The DISCUSS model of group decision making. Journal of Experimental Social Psychology, 24, 393-422.
Stasser, G., Taylor, L. A., & Hanna, C. (1989). Information sampling in structured and unstructured discussions of three- and six-persongroups. Journal of Personality and Social Psychology, 57, 67-78.
Stasser, G, & Titus, W (1985). Pooling of unshared information in group decision making: Biased information sampling during groupdiscussion. Journal of Personality and Social Psychology, 48,1467-1478.
Stasser, G., & Titus, W (1987). Effects of information load and percentage of shared information on the dissemination of unshared informationduring group discussion. Journal of Personality and Social Psychology, 53, 81-9

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