第182回 "意外な"人間心理や行動を明らかにした社会心理学の研究結果(3)〜 メンバーによるリーダーシップ評価の良し悪しは、行動よりも結果次第? 〜

2026.1.30 山口 裕幸(京都橘大学 教授)

「リーダーシップが集団のパフォーマンスの良し悪しを決める」という認識は正しいか

 国際関係の世界では、一部のリーダーが全体を振り回すような様相を呈している。国内政治においても、リーダーの決断1つで国会解散や総選挙の実施へと突き進む事態が生じている。組織においてもまた、リーダーの判断や行動1つで、その動向が大きく変化することは珍しくない。

 リーダーが自らの考えを実現しようとして行動し、影響力を行使することが、リーダーシップの中核である。そして社会や組織のメンバーは、リーダーが示す考え方や発言、行動を観察しながら、そのリーダーシップを評価すると考えられてきた。

546_01.jpg  こうしたリーダーシップの効果性に関する考え方は、リーダーが優れた見識をもち、それに基づいて的確に判断し行動すれば、メンバーはそのリーダーシップを高く評価するはずだ、という前提に立っている。しかし、メンバーは本当に、純粋にリーダーの見識や行動だけを見て、そのリーダーシップを評価しているのだろうか。

メンバーによるリーダーシップ評価に関する実証研究

 古川久敬(1972)の研究は、こうした疑問に対して明快な答えを示している。彼は、中学1年生の男子150名を対象に、「一枚の絵から物語をつくる作業を一緒に行いたい人」を互いに選択させ、4~5名からなるグループを編成した。そして、大学生1名を指導者として配置し、中学生のグループ作業を指導・監督する状況を設定した。

 この指導者には、課題達成指向型(PM理論におけるP型)の行動をとる条件と、対人関係維持指向型(PM理論におけるM型)の行動をとる条件という、2つの条件が設定された。

 さらに、各グループが作成した成果物について、指導者とは別の客観的な評価者が、「物語の内容(うまい・おもしろい・なめらかさ等)」「チームワーク」「協力度」の3要素に基づいて評価を行った。その結果について、「他のグループの平均よりも優れている」とフィードバックする条件、「劣っている」とフィードバックする条件、そして何もフィードバックしない条件の3条件に、グループを割り振った。ただし、このフィードバックは、実際の出来映えとは無関係にランダムに与えられた。

 まとめると、この研究では、指導者のリーダーシップ行動要因(2水準 : P型・M型)×成績フィードバック要因(3水準 : 優秀・劣等・フィードバックなし)の計6条件が設定され、各グループが作業を行った。

 成績のフィードバック終了後、グループのモラール(作業に対する満足度、他グループ・メンバーの作業能力に対する評価、集団凝集性)および、指導者のリーダーシップについて、質問紙による測定が行われた。

集団のパフォーマンスの優劣は、指導者のリーダーシップ評価を変える

 成績が優れていると評価されたグループのモラールは高く、劣っていると評価されたグループのモラールは低かった。これは予想通りの結果である。

 しかし注目すべき点は、成績が優れているとフィードバックされたグループでは、P型中心の指導者に対して「M型行動も十分に発揮していた」と評価し、M型中心の指導者に対しても「P型行動を十分に発揮していた」と評価していた点である。すなわち、良い結果を達成したグループでは、実際にはP型あるいはM型中心の行動をとっていたリーダーであっても、PM両方を兼ね備えたPM型のリーダーとして認知されていたのである。
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 一方、成績が劣っているとフィードバックされたグループでは、P型中心の指導者に対して「P型行動はさほど発揮されていなかった」と評価し、M型中心の指導者に対しても「M型行動は十分ではなかった」と評価していた。悪い結果に終わったグループでは、リーダーはP型・M型のいずれも不十分なスモールpm型として認知されたのである。

 指導者の行動内容は、事前に厳密に規定されており、すべての条件で同一であった。それにもかかわらず、グループの成果の良し悪しによって、メンバーからのリーダーシップ評価は大きく異なるものとなった。この研究は、同じリーダーシップ行動であっても、結果次第で評価が左右されることを明確に示すものとであり、リーダーシップ研究に新たな視点をもたらすものとなった。

リーダーシップ評価は「結果がすべて」なのか

 チームの成績が振るわなければ、監督やヘッドコーチが解任される事例は枚挙に暇がない。部外者が結果を見てリーダーの有能さを評価することは、ある意味では避けがたいだろう。

 しかし問題となるのは、リーダーのリーダーシップを日常的に体験しているメンバー自身の認知である。メンバーは、リーダーとの関わりを通じて、その見識や行動を理解し、比較的純粋にリーダーシップを評価していると考えられがちだ。だが実際には、メンバー自身もまた、結果次第でリーダーが発揮しているリーダーシップの評価を大きく変容させてしまうのである。

 部下に自らのリーダーシップを正しく評価してもらうためには、日頃から十分なコミュニケーションをとり、部下の意見に耳を傾けつつ、自身の認識や判断、考え方を明瞭に伝え続けることが重要である。結果の良し悪しは、リーダーシップ以外の多様な要因によって左右される。

 良い結果が出ない苦境にあっても、なお部下の信頼と期待を集めるリーダーシップとはどのようなものか。本稿で紹介した研究は、その問いを考え、自身のリーダーシップを構築していくことの重要性を、逆説的に教えてくれるものだといえるだろう。


【引用文献】
古川久敬(1972). 成功あるいは失敗評価がフォロワーのモラールおよびリーダーシップ機能認知に及ぼす効果、『実験社会心理学研究』、11(2), 133-147.

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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