第37回 温かいデザイン(13)

2019.09.26 山岡 俊樹 先生

 20世紀では自動車や家電のデザインは個性があり味があった。しかし、現在、グローバル化により企業の合従連衡が進み、ユーザの支持を受けるためか、似たようなデザインばかりになっている。米国企業の子会社になる前のブラウン社のシェーバーは、端正なモダンデザインではあったが、温かい感じがして愛好していた。しかし、子会社になると万人受けのするデザインとなり、その変身ぶりに驚いた経験がある。握りやすいという表面的な観点からシェーバーの本体部分の形状を手にフィットするようにしたデザインは多いが、本当に良いのだろうか?フィット性が強いと製品と手の間のあそび部分が無くなり使いにくくなる。その点、以前のブラウン製のシェーバーの本体は、シンプルな直方体であった。一見持ちにくそうに見えるが、その為自由度が高く、様々な持ち方が可能となり、顔の複雑な形状にも対応できるようになっていた。手の形状に合わせることは、人間工学上フィット性が高まり悪いことではないが、このことは本体を保持したときの評価であるので注意を要する。操作時間という時間経緯でのフィット性も検討しなければならない。フィット性の高いシェーバーの場合、指は本体に固定されているため、顔の複雑な形状に対応させるには、手や腕の動き(回転など)が必要になる。その点、ブラウンのようなシェーバーだと本体を掴んだ指を変化させるだけで、操作ができ使いやすいと考えている。このようなある静的な時点での操作、動作のみを良しとした道具は意外と多い。ユーザの時間軸上での体の変化をあまり考慮に入れていないのである。私の自宅で以前使っていた外国製のイスは、VDT用の為、体に強くフィットするのであるが、それにより自由度が無くなり、使用時間が経過するとイスの要求する姿勢を続けられなくなり、疲れてくる。そこで、フィット性はそれ程高くはないが、自由度の高い食卓用のイスを使ったところ、長時間作業をしていてもそれほど疲れなかった。つまり、オフィスでなく自宅なので、ある一定の姿勢をとり続け疲れると座面上で胡坐を組むのも可能で、ユーザの多様な使い方をイスが許容してくれるのである(図1)。このような家具や道具などがユーザの動きを許容してくれるのは温かいデザインではないだろうか。一方、オフィスで使うイス(図2)は効率が優先しているためか、正しい姿勢を強要するタイプのデザインが多い。

 道具、衣服や建築などのオブジェクトの見た目の温かさだけではなく、ユーザの様々な操作・行動を許容してくれるオブジェクトも温かいデザインと考えたい。

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