第66回 UXを考える(2)

2016.01.26 山岡 俊樹 先生

 最近、面白い体験をした。京都にあるCACAO Marketというチョコレートを販売しているお店であるが、チョコレートの販売は1階で行われており、飲食は同じ建物であるが別の地下1階で行われている。地下1階でスイーツを食べることにしたのであるが、1階で店員さんにその旨を言うと、地下室に入るための入口ドアを開けるために必要な暗証番号を書いた紙をもらった。いったん店を出て、別の入り口まで行きこの暗証番号に従って、ドアに取り付けられたボタン(写真1)を押して、中に入ってゆくという寸法である。地下室の天井は低いが、窓も有り、その下を川が流れている。図書館風のインテリアで、一見ミステリアスなイメージである。入口のドアから階段を経て地下一階の空間まで、デザインは統一されており、UX・物語が演出されている。

 もしこれが、このような仕掛けが無いと、お店からわざわざ外に出て別の入り口から地下室に行くという非効率の悪さを露呈するだけである。ところが、この行為を前述した意味性、物語性を持たせると俄然、楽しくなるのが不思議である。こういう効果があるのがUX・サービスデザインのすごさであろう。

 階段を考えてみると、その機能は下から上へ、上から下へ移動する手段で、足を使って昇降するのである。したがって、この昇降に対して楽しむ人はあまりいないであろう。京都女子大の階段では、1段上がると1カロリー消費すると書いてあり、減量を心がけている人にとっては励みになるだろう。一般的に言えば、階段の昇降は楽しい作業ではないが、これを楽しくした事例がある。階段の踏面前面にセンサー付きのシートを設置し、足で踏むと音が出るようにしたのである。そうすると、階段の昇降作業が意味を持ち、楽しい作業となったのである。ここにもUXデザインの凄さを見て取れる。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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