第77回 アクセントの効用
2023.2.28 山岡 俊樹 先生
我々の生活にはアクセントが必要である。単調な日常生活では飽きてしまうので、非日常の旅行や外食などのアクセントが必要である。アクセントとは強調点という意味で使う。文章、料理、建築やデザインなど多くの領域でそれらを活性化させるためにアクセントは必要である。文章の強調や事例などは、単調な文章になるのを防ぐためのアクセントであり、料理でも単調な味を変化あるものにする胡椒、唐辛子などの香辛料他がアクセントである。
分かりやすい具体的な例として、建築と製品デザインのアクセントを説明する。
図1(a)(b)は米国の建物であるが、窓枠がアクセントとなっているのが容易に分かる。窓枠を白にして、壁面に対しコントラストのあるデザインにしている。図1(a)は窓枠の幅が太く全体として、メリハリがあり、にぎやかな感じとなっている。もし、窓枠の色が壁面と同じ色になった場合は全く平凡で単調なデザインとなるだろう。図1(b)は壁面の色彩も良く、なかなかしゃれた感じである。ヨーロッパでもドイツやオランダなどで同様のデザインをよく見た。多分、石やブロック積み建築の構造から壁面に変化をつけるのが困難なので、アクセント対象を窓にしたのではないかと思う。
図1(a)建物の窓によるアクセント効果(山岡撮影)
図1(b)建物の窓によるアクセント効果(山岡撮影)
一方、製品として自動車デザインを見てみよう。車の正面はデザインのバリエーションが多いので、側面に絞って言及する。車の側面のアクセントは図2(a)(b)の矢印で示すフェンダー部分が多い。図2(a)のフェンダーのデザイン処理は一般的に行われているその部分を若干膨らませたデザイン手法で、しゃれた上品な感じに仕上がっている。図2(b)の方はフェンダーを大胆に大きく膨らませ、側面をボリューム感のあるアクセントにしている。フェンダー部分をデザインのポイントとしているので、その他のパーツはあっさりとしたデザインである。このデザインを徹底したのがフォルクスワーゲン・ビートルである。図2(a)のように側面に凸上のラインなどを引いて線を強調すると煩雑な感じとなるため、大きなフェンダー部分のみで側面デザインの売りにしている。両車とも造形のポイントを押さえた魅力的なデザインである。
図2(a)ドイツ車のデザイン(山岡撮影)
図2(b)アメリカ車のデザイン(山岡撮影)
図3(a)は渡辺力デザインの有名な壁掛け時計である。盤面のデザインとして、時刻を表す数字は明朝体風の軽い感じの数字を長めの目盛りの内側に配した構成である。一般的な壁掛け時計と比較すると、時針と分針の太さの大幅な差が主のアクセント効果であり、数字の書体とその配置が副のアクセント効果となっている。そのため、従来の壁掛け時計と比較して、魅力あるデザインとなっている。図3(b)はスペイン・バルセロナの駅にあった時計である。オランダでもドイツでも同じデザインの時計があり、共通になっているようである。非常にすっきりとしたデザインで見やすく、アクセントは長めの12個の目盛りである。図3(a)は住宅などで、図3(b)は公共空間で使われるのを想定しているので、コンセプトが明確である。
図3(a)壁掛け時計(山岡撮影)
図3(b)バルセロナの駅時計(山岡撮影)
今回、分かりやすくするため建築と製品デザインを例にとり、アクセントの効果を紹介した。日常生活を活性化させるためのアクセントとして、非日常の旅行、コンサートなどの参加などが考えられる。このようなアクセントはシステム、製品の目的・コンセプトによって絞り込まれ具現化される。図2の自動車の例が明快である。しかし、我が国の自動車の一部であるが、コンセプトが明確でないためか、造形が混乱しているデザインをよく見る。必然性のない不必要な凹みなどを側面に施し、アクセント効果にしているのだろうが、ノイズとなり不統一な印象をユーザに与えていないだろうか?
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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