第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン

2021.09.30 山岡 俊樹 先生

 制約は今まで述べてきたモノ、コト、システムだけではない。社会生活をする上で様々な制約がある。法律や慣習など多数ある。法律に関していえば、憲法を最上位に位置づけした法律の体系化がなされている。これらの法律、制約条件により、我々は安全な生活を営むことができる。しかし、明文化されていない慣習などもある。40年以上前の時代では、外で歩きながら食べるというのは、はしたないという慣習があり、誰もそのようなことをしなかった。現在ではそのような制約は自然と無くなり、自由に気兼ねなく食べている。

 以前にも話をしたが、どうも我々の生活の根底に流れる大きな脱近代主義のうねりがあり、そこから脱束縛、多様化の考え方が生まれているように思える。それは生活が豊かになり、マズローのいう欲求五段階説の一番上のレベルに到達し、余裕がでてきたためであろう。余裕が出てくれば、今まで考えようとしなかったことを考えるようになるのは当然だろう。

 製品や建築をデザインする際、なぜイメージを優先させるのか?これはデザインする上での頑強な哲学で、誰もこれが真実であると疑うとしない。私も若い時、そのように思い込んでいた。しかし、よく考えるとデザインするとき、以下の2つのベクトルが考えられる。

1.最初はデザイナーの発想を重要視してデザインを決めたが、コストが合わない、製造が困難などのため、そのデザインを修正した場合

2.最初からコストに合うように配慮して、デザインした場合

 1の場合をよく経験した。何とか製品化してくれと頼みこみ、製品化したことがあった。しかし、販売1年後、どうしてもコストが合わないので、一部変更してくれと工場から要請があり、再度時間をかけて一部手直しをした。それならば、2の場合のように最初から厳密にした方が良いのではと考えるようになった。その場合、以下の項目を最初に検討し、制約条件を絞り込んでいくべきである。

1 社会・文化・経済的制約:工業化社会・情報化社会、都市・村落、工業・農業・商業

2 空間的制約:外部空間・内部空間

3 時間的制約:過去・現在・未来

4 人間に関わる制約(思考、感情、身体):思考・行動、感情・理性、身体・心

5 製品・システムに関わる制約:システム・カオス(混沌)、機能要求・非機能要求、自動・手動、デジタル・アナログなど

 伊吹卓氏の「企画術」PHP文庫,1992,を読むと、ニーズは社会欲で、つまりそのニーズは世間の多くの人が欲するかどうかが大事だと指摘している。ところが企画者は自分のアイディアは素晴らしいと思い込む場合が多く、これは私欲で、ニーズ:社会欲ではなく我欲であると断じている。

 製品や建築のデザインも同様である。建築でいえば、京都の街並みになぜこのような我欲のデザインがあるのか、疑問に思うことがある。形状は平凡であるが、街並みに調和し、存在感のある建築ではだめなのか?製品デザインや情報デザインも同様である。先日、ある銀行で送金手続きをしたが、よく分からず行員さんに確認したところ、操作画面からでは絶対分からない操作を必要とし唖然としたことがあった。このようなユーザビリティの検討はUI(User Interface)デザイナーがおこなっていないのではないだろうか?

 図1は私が愛用している万能型スプーンである。以前、バリアフリー展で購入したものであるが、造形、使い勝手共良く、素晴らしい製品である。スプーンというデザインする上で数多くの制約条件が存在するにもかかわらず、上手くまとめている。

 図1 万能型スプーン

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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