第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
2021.05.31 山岡 俊樹 先生
机の上に置かれてあるコーヒーカップを見ていると単なる一つの存在しか見えない。同じ場所にあるデジタルクロック、CDミニコンポなども同様である。このような見方が、従来のモノづくりであり、デザインを支配していた。実は、これらのモノとコトは世界とつながっている。モノに関しては、材料入手、製造からユーザが使用し、破棄するまで、あるいは再利用するなどのつながりがある。コトに関しては、同じインタフェースならばコト同士のつながりが生まれ、あるデザインに感動するならば、その感動が他の新製品の発想につながるだろう。
このように考えると、大きく分けて時空間と人間の観点から、様々なつながりを考えることができる。
(1)時間軸上のつながり:(例)歴史上のつながり、将来へのつながり
(2)空間上のつながり:(例)ある空間に置くモノどうしのつながり
(3)人間とのつながり:(例)ラジオやTVのようにモノ・コトと人間とのつながり
時空間の中で、多くのつながりをみることができ、エコシステムならば、時間と空間の視点からそのつながりをみることができる。SDGsも同様である。人間の周囲にあるモノを考えると、人間とモノはコトを通じてつながっているのが分かる。
今までのモノづくりは、単品そのものの見方でしか、考えてこなかった。単品で十分売れたし、それで十分という考え方のためであろう。製品の機能さえ満足していれば、それでよしという考え方である。その後、生活レベルが上がり、余裕が出てきたことや、海洋の汚染、ゴミ問題などの単品思考の矛盾が生じた為、人々の意識は変わったといえるだろう。食卓に置く飲料水や調味料のパッケージなどは、スーパーやコンビニでの販売を主としたデザインで、購入後のこれらの商品の使われることや人間とのつながりをあまり考えていなかった。
今後は当然ながらつながりを考えて、モノづくりやデザインをしていく必要がある。今までの単品思考の考え方やモノづくりのベクトルのつけが、現在の様々な問題を引き起こしているからである。近視眼的なアプローチではなく、巨視的アプローチが必要である。
このようなつながりを考えた巨視的アプローチをする1つが、サービスデザインである。このデザインは、従来のデザインだけでなく、ビジネス要素や社会要素をつなげ、システム化した存在であり、従来のデザインの持つ具象性から抽象性、システム性にウエイトが置かれている。サービスデザインは、デザインの持つ審美性もさることながら、新しいビジネスを提案するのが主目的である。サービスデザインの定義として、徹底したユーザの視点から「UX、ストーリーや意味性などを介して、人間に係わる様々な要素をサービスとして統合し、人間に対する価値あるシステムにする作業」である。この価値あるシステムがビジネス提案の意味となる場合があり、従来の近視眼的なビジネス提案との相違である。ここではデザイナーの能力を造形の中に閉じ込めるのではなく、ビジネス創成という新しい価値創造にその有機的能力を発揮する新しいタイプのデザイナーの出現が待たれる。この新しいタイプのデザイナーは、創造力のある人材ならば誰がなっても良い。

図1 サービスデザインの定義
図1とサービスデザインの定義:山岡俊樹編著,サービスデザイン,P5,共立出版,2016より
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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