第76回 活動理論の活用
2023.1.30 山岡 俊樹 先生
教育分野で活用されている活動理論(activity theory)がある。ヴィゴツキー(Vygotsky)、レオンチェフ(Leont'ev)を経て、エンゲストローム(Engeström)が図1のフレームに拡張させた。わかりやすい例で説明すると、大学の研究室でのゼミならば、「主体」をゼミの教師とすると「対象」は研究室のゼミ生であり、「人工物」は大型液晶スクリーン、プロジェクターのスクリーンあるいは白板となる。つまり、教師はゼミ生に対し液晶スクリーンや白板を通して指導し、結果としてゼミの内容を理解できるという構図となる。
液晶スクリーンだけでなく、白板に書いて理解を深めてもらうこともあるだろう。更に、「ルール」はゼミの時間に遅刻しない、宿題をしてくる、「コミュニティ」はゼミという共同体であり、「分業」は教師は教え、学生は学ぶことである。これらのことにより結果として学生はゼミでの授業内容を理解できるということになる。この三角形は他の三角形とつながり、全体としてのベクトルを調整、分析することなどが可能となる。例えば、授業ごとがバラバラでまとまりがないと学生は困るので、教師間で調整されたシラバスによって学生は効率よく授業を選択し学ぶことができる。
この活動理論の構成図を観察、ユーザビリティやサービスデザインなどの分析に使えないか検討してみた。しかし、教育現場のように集団で活動する場合はいいのだが、そうでない場合が多いので、構成図の下位に位置するルール、コミュニティ、分業のキーワードの代わりに、観察やユーザビリティなどに使うキーワードを置くことにより分析できるめどがついた。
人間と機械との関係を観察したい場合、ルール、コミュニティ、分業の代わりに、HMI(Human Machine Interface:人間-機械系)の5側面とその下位の15項目を使って分析するというアイディアである(図2)。HMIの5側面は以下の通りである。項目の詳細は参考文献を活用してほしい。
1.身体的側面:①姿勢、②力、③フィット性
2.頭脳的側面:①見やすさ、②わかりやすさ、③メンタルモデル
3.時間的側面:①作業時間、②休息時間、③(システムの)反応時間
4.環境的側面:①温度・湿度、②照明、③振動、騒音など
5.運用的側面:①組織の方針、②情報の共有化、③モチベーション
HMIの5側面、15項目をチェックするだけのことであるが、チェックすべき事項が明確となり、観察するシステムの問題点を把握しやすい。例えば、ホテルの清掃員は作業で身体面の負担はないか?作業時間は適切か?良い環境で働いているのか?仲間との情報共有はうまくいっているのか?やる気はどうか、など容易に問題点を出すことができる。
同様に70デザイン項目を使って、各項目に関して評価ができる。
(1)HMIの5側面他(5項目)
(2)ユーザインタフェースデザイン項目(29項目)
項目が多いので、画面インタフェースデザインの6原則を用いればよい。
①手がかり
②用語
③マッピング
④一貫性
⑤フィードバック
⑥メンタルモデル(動作原理)
(3)ユニバーサルデザイン項目(9項目)
(4)感性デザイン項目(9項目)
(5)安全性デザイン項目(6項目)
(6)ロバストデザイン項目(6項目)
(7)メンテナンスデザイン項目(6項目)
(8)エコロジーデザイン項目(6項目)
(山岡俊樹, デザイン3.0の教科書, pp. 98-111, 海文堂出版, 2018)
接客に関して、サービスデザイン(接客)項目(3項目)を活用する。
① 気配り:(a)共感、(b)配慮
② 適切な対応:(a)柔軟、(b)正確、(c)安心、(d)迅速、(e)平等
③ 態度:(a)共感、(b)寛容、(c)好印象、(d)信頼感
(山岡俊樹, サービスデザインでビジネスを作る, pp. 50-52, 技報堂出版, 2022)
図3の構図で、例えばホテルの受付でお年寄りがどう手続きをしたらいいのかわからない場合、サービス従業員(コンシェルジェなど)は「①気配り」によりこの状況を察知し、「③好印象の態度」で、「②安心・平等の対応」を行う。この気配り、対応、態度はケースバイケースでそれらの下位の項目を使えばよい。
項目を並べマニュアル化しても、使う人間として容易に身につかないことが多い。しかし、このようにフレームにしてわかりやすい構造で示すと理解が進むのではないかと思う。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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