第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン

2022.1.31 山岡 俊樹 先生

 「知識」と「体験」が目的を導出する、つまり新たな発想をすることでもある。正確に言えば、「知識」と「体験」により新たな発想が生まれ、目的が浮上するという構図である。最初に目的を考えるのが難しく、そもそも抽象概念である目的を簡単に考え出せないからである。ある事項やシステムを長年考えていれば、それらの情報から目的を演繹的に抽出するのは容易であろう。しかし、このようなケースはまれであり、急に何かを発想しなければいけなくなった場合が多い。

 知識は「~の情報」「~の体験」などによる理解とする。知識の定義は難しいので、ここではこのような簡単な定義にしておく。体験は「~の経験をする」という定義にする。知識は「何々するモノ」、体験は「何々するコト」ともとらえることができる。知識は名詞の働き、体験は動詞の働きがあり、体験は知識同士を接着する働きがあると考える。つまり、知識(名詞)+体験(動詞)で具体的なイメージが作られるのである。視点を変えて言えば、無限大の情報空間から、知識+体験による特定のイメージが切り取られるのである(図1)。

 ミネルバ大学という移動型の米国の大学がある。「高等教育の再創造」というコンセプトの下、大学の校舎はなく、遠隔授業で学習し、世界中を移動しながら、指定された世界7都市で多様な体験をするという新しい教育を提供する大学である。入学難易度はハーバード大学以上といわれている。「高等教育の再創造」というコンセプトは、トップダウン的に決めたのか、ボトムアップ的(積み上げ式)に絞り込んだのか不明であるが、知識+体験のフレームから考えると、高等教育という知識群が再創造という体験により統合されて、従来にない大学システムを作り上げたとも解釈できる。

 大学のモノ・コトづくり教育では、デザイン系の教育は知識よりも体験を重視したカリキュラムになっており、一方工学系の教育は知識を優先させている。しかし、未来の予測が難しくなるVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代では、知識と体験の両方がより重要になってきている。大学での教育も同様に、知識と体験を統合し充実した内容にする必要がある。例えば、統計の授業では、統計の考え方の知識を教えるだけではなく、得た知識を実際にどう活用するのか、統計ソフトを使って体験してもらうなどの方法が、統計を学生にマスターしてもらうポイントである。

 VUCAの時代に入って、モノ・コト作りのベクトルが定まらないため、何事も広く、深く考える能力が求められている。視野狭窄では仕事にならない。デザインの世界ならば、単品のデザインの世界からシステムのサービスデザインやソーシャルデザインなどの世界へ、そのウエイトを変えつつある。そのため視野が広く、深く考察できる人材が求められている。ビジネスの世界でも同様である。幅広い視野と1つか2つの深い専門性がある人材が必要となる。

 現在は近代主義の考え方が終焉を迎え、時代の端境期にあるといえる。
次回は「知識+経験」の専門性について紹介する。

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