第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン


2021.06.30 山岡 俊樹 先生


 サービスデザインを検討する際、常に思うことであるが、検討事項を俯瞰して考える必要がある。俯瞰することは検討しているシステムの構造を考えることでもある。

 造形の実習で自分が思うイメージを立体にする課題を出すと、自分がイメージする要素を頭の中から持ってきて、それを統合して提案する例が多い。また、卒業研究で技術要素を集め、統合して技術システムとして提案していた例もある。同様に企業の会議で様々なことを言うが、結局何を言っているのか分からないビジネスマンもいた。以上の例から、いえることは、あるテーマに関して思いつくまま出たアイディア、意見を有機的な関係にするのでなく、それらの関係性を考慮せず時間軸上で並べているに過ぎないことが分かる。音楽では各音が時間軸上で奏でられ、それが統合されて一つのイメージとなり、聞く人に感動を与えるのである。簡単な音楽ならば、トレーニングが必要なく、すぐ理解できる。しかし、クラシック音楽の世界では、精神性のウエイトが高いので、何回も聞かないとその良さは理解できない。『村上春樹とイラストレータ』という本で、この本にでてくる和田誠や安西水丸などのイラストレータがその発想プロセスを述べている。これによると村上春樹の本の装丁や挿し絵を描く際、その本の要素を集めて描いているわけではない。彼らがその本を読んだ印象や浮かんだ風景をもとに表紙などを描いている。彼らは本を読むと多くの断片的なイメージが生まれ、それらを統合して全体のイメージを作り、そのイメージを基に演繹的にそれらを描いていると思われる(図1)。イラストの世界でも、クラシック音楽と同様、読み手にあるレベルの感受性が求められる。イラストの持つ味というか世界観を理解するだけの感受性が必要になる。その為には、音楽と同様、数多く見る体験をしなければいけない。

 人間の思考は、バラバラに考えるのが自然なのかもしれない。しかし、思考を深めるとバラバラと考えた事項が、構造化され統合化されるのだろう。この構造化された時、その流れから最上位事項(概念)は求められる。我々は理解し、情報を伝達するには、情報を構造化するのが一番合理的である。実体>性質>量のように、マクロ情報からミクロ情報を伝えるのが理解しやすい。マクロ情報の構造の中にミクロ情報が位置づけられているからである。京都市東山区のAさんと紹介された方が、Aさんの住居を理解するのが容易になるからである。つまり、それらの関係が入れ子構造となっているためである。機器を操作するとき、ユーザの頭の中に生まれるその機器の操作イメージをメンタルモデルといっている。メンタルモデルには、Structural model(以下Sモデル)とFunctional model(以下Fモデル)があり、主に前者は構造、後者は手順を意味する。手順は時間軸上でなされるので、時間が大きな影響を与えている。このメンタルモデルを思考のレベルまで拡大させると、意外と見えなかった世界が見えてくる。マクロの情報を支配しているのが構造のSモデルであり、ミクロの情報に影響を与えるのが時間のFモデルとも考えることができる(図2)。

 サービスデザインでも、検討するサービスシステムの構造を考え、時間軸上でのシステム要素を検討するのが大事である。時間軸上でのシステム要素を検討するとは、サービスを成り立たせるための操作、作業の流れであり、それらの関係である。前回、サービスデザインの定義として、「UX、ストーリーや意味性などを介して、人間に係わる様々な要素をサービスとして統合し、人間に対する価値あるシステムにする作業」としたが、人間に係わる様々な要素がFモデルに該当し、人間に係わる様々な要素を統合し、人間に対する価値あるシステムにした結果が構造であり、Sモデルである。

 図1 イラストレータの発想プロセス

 図2 マクロとミクロ情報

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