第41回 温かいデザイン(17)

2020.01.28 山岡 俊樹 先生

 戦後から現在までのものづくりやデザインの変遷をマズローの欲求5段階説に沿って考えてみたい。厳密ではないが、戦後1950年から2010年ごろまでに、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求を経て、現在は自己実現欲求のレベルにあるのではと考えている。1950年頃から2010年頃までの期間は、近代化の終盤の時期になりつつあると考えられる。近代化とは封建制が資本主義に移行し、我が国では明治維新後ということになる。近代化の期間はいろいろ説があるが、本文では明治維新から現在までの期間とする。現在は近代から次世代への端境期として捉えることができる。しかし、次世代の明確なイメージは構築できず、AI、IOTやグルーバル化などによって、ずるずると自然発生的に変化してゆくのかもしれない。近代化のポイントは、合理的、科学的、民主的になることである(大辞林 第三版)。例えば、人力・畜力が近代化により機械に変わり、更にそれが現在、デジタル情報やロボットの活用の時代に進化している。経済でも、自給自足経済から市場経済になり、現在はシェリングエコノミーのウエイトが徐々に高まってきている。家族や教育においても徐々にその形態が変わりつつある。こうした近代化の骨格であるのが「効率」で、この効率の本質を描いたのがミヒャエル・エンデの童話「モモ」である。確かに効率を追求することにより生産性が上がり人々の生活が豊かになったのは事実である。しかし、マズローの自己実現欲求レベルに到達すると効率を超えた心の豊かさが我々の意識、価値観に影響を与えつつある。心の豊かさは多様性により実現されたのではないだろうか。多様性にはグローバル化の影響も見過ごせない。効率を行うには様々な制約条件(例えば、標準化)が必要であるが、多様性という概念により従来の制約条件というタガが外れつつある。例えば、同性婚、断捨離、地方移住、実力主義など我々の身の回りにその変化を確認することができる。

 効率追求時代のデザインは正しく差異をもとめる活動であり、どうやって他社製品との差別化を追求するのかが大きなベクトルであった。自動車のデザインを見るとチータとかタイガーのような足の速い動物をメタファーにして、そのイメージを借りていかに具現化するかがスタイリングのテーマとなっている。一昔、米国では流線型の自動車が流行ったが、それはスピードの速い飛行機のイメージを借用したデザインであった。全く意味のないデザインの為、すぐ廃れたが、このような理想とするイメージの借用は家電製品などでもよく見られる。例えば、掃除機の場合、車輪があるので車のイメージを流用したり、吸引力や精密な機械を演出するために複雑なスタイリングになっている製品もある。しかし、我々が生活する上でそのようなイメージは必要なのだろうか?確かに販売店で商品を見る際、イメージが明確なデザイン程、カッコよく見えて思わず購入したくなるのは自然である。イメージの強いデザイン程、存在感はあるが、このような形状での存在感ではなく、形状は平凡でもそのモノに係る情報が凝縮された存在感あるデザインが徐々にウエイトを占めてゆくのではないかと考えている。シェアサービスになると、多様な人々が使うので差異を求めるデザインではなく、存在感のあるデザインになるだろう。最近、我が国で誕生したタクシー専用車のデザインを見るとそれを感じる。

 心の豊かさが重要なデザインのポイントになり、その具体的概念が存在感であり、温かいデザインでもある。コーヒーを飲むとき、モダンで無駄の無いカッコよいプラスチックやステンレスでできたデザインよりも、形状は平凡でも、作り手の息遣いが感じられる陶器の方が、存在感があるのではないだろうか?


図 手作りの為、開口部は歪んでおり正円ではない

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