第42回 温かいデザイン(18)

2020.02.28 山岡 俊樹 先生

 前回、「心の豊かさが重要なデザインのポイントになり、その具体的概念が存在感であり、温かいデザインでもある。」と述べたが、ここで言う存在感とは、モノやシステムが包含している概念・イメージに対する実感である。今までのモノ・システムのデザインは近代化の流れの中で他者と差別化するカッコよい形状を追求することであったし、我々の生活も同様なスタンスをとっていた。しかし、マズローのいう自己実現のレベルにいる現在、我々は他者との比較ではなく、自分自身の再認識であり、デザインはモノ・システムとの新しい関係の構築ではないかと考えている。その関係の一つが存在感である。我々は共感から存在感を認識し、あるいは存在感から共感を覚え、温かいデザインにつながると考えている。例えば、浦辺鎮太郎設計の倉敷国際ホテル(図2)は私にとって、存在感のある温かいデザインである。また、愛用しているペリカン万年筆のスーベレーンも存在感のある万年筆で、そのモノづくりの歴史に共感し、温かいデザインと思う。

 このお寺はこういう歴史があるなどとその物語を聞くと共感し、新しい認識、存在感が生まれる。また、絵画を鑑賞したり、音楽を聴く時、従来に無い体験を感じることがある。このように、物語や体験は様々な感情を生成する。図1はこのような視点から、商品の3属性、ストリー、感情とUXによる感覚の関係を示したUX・ストリー・システム図である。この図の構成要素の組み合わせが存在感を示していると考えている。図1でUXによる感覚を示すキーワードの正式名称は以下の通りである。

①非日常の感覚
②獲得の感覚(有益な情報などの獲得や商品を購入、贈り物を受け取ったときの感覚)
③タスク後に得られる感覚(達成感、一体感、充実感など)
④利便性の感覚(Webサービスや製品の持つ利便性によって得られる感覚)
⑤憧れの感覚
⑥五感から得られる感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感から得る感覚)

 存在感は図で関係する項目間を線で結ぶことにより検討・構築することができる。例えば、お伽の国のお城を建設する場合、お伽の国のお城(魅力性)を建設(架空のストリー)すると、利用客は非日常性(UXによる感覚)を感じて、喜ぶ(感情)。その結果、顧客はお城の存在感から温かいデザインを感じるようになる。また、病院で最新の医療機器(有用性)を導入(最新の物語)すると、患者や入院希望者は憧れの感覚(UXによる感情)を抱き、期待(感情)が生まれ、その結果、生じたシステムの存在感を通して温かいデザインを感じるようになる。

 このようにUX・ストリー・システム図を活用すると存在感を検討することができる。


図1.UX・ストリー・システム図 [1]

図2. 倉敷国際ホテル

文献
1.山岡俊樹,デザイン人間工学に基づく汎用システムデザインプロセス,p8, 第22巻,1号,通巻85号,デザイン学研究特集号,日本デザイン学会誌,2015

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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