第39回 温かいデザイン(15)
2019.11.29 山岡 俊樹 先生
沖縄は温かい気候のためか、温かいイメージの壺屋焼などの焼物が多い。焼物なので温かいイメージがあるのは当然であるが、沖縄ではそのイメージが強い感じがする。焼物にパターン(絵柄)があるのは違和感がなく、自然の感じがするが、1970年代ごろ、花柄などを貼り付けた電気ポットや炊飯ジャーなどが多く見られ違和感があった。現在は家電製品などに花柄などのパターンをつけることは無くなったようであるが、なぜであろうか?自動車やカメラなどのようにメカニック感を表出させる製品の場合は、それ自体の存在感が重要でそれに関係しないパターンは不必要である。それらよりはユーザとの心理的距離の短い、身近な炊飯ジャーや電気ポットの場合、より心理的距離を短くするため花柄などのパターンをつけたのであろう。しかし、パターンとして生活感が無く、取ってつけたような感じがするのと、人々の生活レベルが上がり、住空間も豊かになり、花柄などをつけなくとも炊飯ジャーや電気ポットの存在感で十分という状況になったからだと思う。
焼物や衣服には必ずパターンが重要な存在となっている。そのパターンにより作者の思いがユーザに共感となって伝わる。パターンが無い場合は、色や形のみが作者の伝えることのできる手段となり、なかなか共感を得るのが難しくなる。しかし、端正で無駄の無いモダンな陶磁器などは、様々な制約条件をシンプルな形に統制しているので、見る者の心を打つ。このようなクールなデザインの心理的距離は長いが、長年使っていると愛着がわき、温かいデザインとなるだろう。
そのように考えると温かいデザインには、オブジェクトの持つ素材感、形状や体験などが影響を与えているのがわかる。最近、様々な学会でこの件を発表しているが、温かいデザインの成立条件は以下のように考えている。
①自然素材の活用
木材、竹、籐や石材などの自然素材である。
②意味性・ストーリーの構築
モノ・コト・システムのもつ意味性・ストーリーや、茶道、華道などの作法の歴史的継続性による意味性など。
③体験による時間的経緯
モノを使った体験とその体験の時間的継続性により、モノに対する親密性が獲得される。
下図の沖縄の壺屋焼のコーヒーカップを見てほしい。このコーヒーカップは、①自然素材の活用、②意味性・ストーリーの構築、が関係している。①自然素材の活用は土という素材を活用したものであり、②意味性・ストーリーの構築は、魚というモチーフを活用しているので、その意味性を我々に伝えている。一方の白のコーヒーカップはビジネスホテルに置かれてあったもので、機能的であり無駄がなくクールなデザインである。その心理的距離は遠い。しかし、壺屋焼のコーヒーカップと比較して好みの好き嫌いが無く、誰でも違和感なく使われるデザインである。従って、コストのこともあるが、ビジネスホテルで使われていたのである。
図 シンプルなデザイン(左)と温かいデザインの壺屋焼のコーヒーカップ(右)
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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