第28回 温かいデザイン(4)

2018.09.25 山岡 俊樹 先生

 温かいデザインの概念を厳密に定義できているわけではないので、逆の概念に近いモダンデザインを考えることにより、温かいデザインのベクトルをより明確にしたい。

 製品デザインをしていた若いころ、2年上の先輩がなぜ工業製品に絵柄をつけてはいけないのかとよく耳にした。その時は、確かにそうだと思ったが、モダンデザインの盛んであった時期でもあり、絵柄をつけると製品の造形の良さが喪失される、かっこが悪いと思ったのも事実である。ただ、素晴らしい絵柄ならば良いのだが、そのようなものをあまり見たこともなかった。

 建築の世界では、浦辺鎮太郎(うらべ しずたろう)は倉敷を中心として活躍し、反モダン建築を志した建築家である。倉敷国際ホテルやアイビースクエアなどが有名である。彼の建築は10年後が完成だと本で読んだことがある。時間を設計要素に取り込んでいるのである。建築雑誌ではでき立ての室内に何もない空間を写真で紹介しているが、生活臭さが無く寒々しい感じがするのは私だけであろうか。あるステンレス製の建物が築数年で錆びだらけになっているのを見て驚いたことがある。建築や人工物は出来た時が完成ではなく、使い込んでいってこそ、それが使う人々の究極のデザインなのだろう。

 約30年前に人間工学のISOの会合で欧州に出かけ、ペリカンの3000円程度の安物の万年筆を購入したが、今でも気に入って使用している。使用者と人工物との身体的、精神的な一体感というのも温かいデザインの要件かもしれない。モダンデザインでも気に入って使い込んでいけば、温かいデザインとなる。

 前回、人工物との心理的距離について述べたが、京都の街並みを歩いていたら、その心理的距離を縮めるべくデザイン処理をしていた例があったので紹介したい。ある建物の外にエアコンの室外機が置いてあった。それは典型的な機能主義のデザインであり、その建物との雰囲気が合わないので、木の格子で室外機を囲み、周囲の雰囲気を壊すことなく存在していた(図1)。


 容器について考えてみたい。図2で示している容器はどうだろうか?真ん中にあるステンレス製のコップは2重構造になっているので、本体を手で持っても熱くはない。しかし、日常的に使う気になれないので、もっぱら旅行時に使っている。右にあるコーヒーカップは台湾・台中のSplendorホテルに宿泊した際、気に入ったのでホテルと交渉して購入したものである。左側にある波佐見焼のコーヒーカップはプレゼントされたものであるが、使い勝手がよく気に入って使っている。これら以外でも気に入って購入したコーヒーカップは数多くあるが、ほとんど使っていない。質感が気に入って購入したのであるが、直径が大きすぎたり、なかなかしっくりくる製品はそれほど多くはない。このような気に入った商品は心理的距離が短く、温かいデザインともいえる。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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