第48回 温かいデザイン(24)
2020.09.30 山岡 俊樹 先生
長年使っていた真っ黒なボーズのCDコンポがついに壊れてしまった。ふと考えるとこの機械に対して、音楽を奏でる装置程度の認識で、それ以上の存在ではなかった。真っ黒なモダンなデザインで、形状はすっきりしているが、ただそれだけである。職人さんが大事にしている道具に対する感覚ではない。
マーケティングの世界では、ベネフィット(便益)という観点から製品の仕様を決める考え方がある。これには機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットがある。この情緒的ベネフィットにデザインなどが含まれる。従来の製品は、機能的ベネフィットの方が、訴求力があるので、機能的な面でのスペックで決めてしまう例が多くあった。製品のカタログを読むと機能面での優位性を強調しているのが多い。昔は、製品を購入する際、夢中になって製品間のスペックを比較し、CP(コストパフォーマンス)の良い製品を選び出していた。しかし、ここ15年ぐらいから、そのようなスペックではなく、その製品のもつ存在感に目が移ってきている様な気がする。10年前に購入したミニベロ(小型自転車)の場合、使っていると楽しそうだという視点で決め、折り畳み式のブロンプトンを購入した。
さて、CDコンポに話を戻すと、いろいろ製品を見たが、ほとんどの日本製が相変わらずスペックの良さで勝負をしていた。音声対応ができるアマゾンのアレクサが搭載されているという割に、モダンで人とのコミュニケーションを拒否するようなデザインが多い。アレクサという機械と人間との心理的距離感を短くする機能に対して、それとは真逆なデザインなのである。
ミニベロで言えば、スピードが出るという視点でデザインされたようであり、音楽を楽しむという視点でのCDコンポはあまり見かけない。あるにはあるのだが、壊れたボーズ並みの価格の商品を考えているので、この価格帯では該当商品が少なく、あっても存在感が無いというか、魅力がない。製品のデザインから伝わってくるモノづくりの哲学が感じられないのが、非常に残念である。これからのモノづくりは、CSR(企業の社会的責任)、PL法(製造物責任法)などから分かるように、ユーザと企業との相互の真剣な関係が問われ、企業の姿勢が一番大事であるというのが私の考えである。冷蔵庫や洗濯機みたいに、スペース、コストなどの様々な制約条件から同じようなデザイン、製品になるのはある程度理解できるが、趣味製品であるオーディオ製品で、なぜ同じような個性のないデザインになるのだろうか(図1)?時代の潮流を考えると各社の哲学、個性をもっと前面に押し出すべきであろう。
一番、魅力を感じているのが図2に示す米国の製品である。多分、機能スペックはそれほど良くないだろうが、何といってもモダンデザインのもつ効率性・主張を超越したその存在感である。これならばアレクサを使っても違和感はない。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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