第34回 温かいデザイン(10)

2019.07.03 山岡 俊樹 先生

 ユニバーサルデザインやメンタルモデルの研究・実践を行う際、まず考えられるのが不便さを無くすなどの効率面を検討するのが普通である。この考え方は20世紀の効率優先のベクトルに対応しているともいえるだろう。21世紀ではこの効率を超えた精神的レベルでの満足感が製品やシステム構築に重要な要素となっている。ユニバーサルデザインにせよメンタルモデルのデザインにせよ、ユーザに温かい感覚で操作をしてもらうということは、新しいデザインの視点ともいえる。

 このように考えるとコンクリート打ち放しの室内空間は、確かにモダンな感覚はあるのだが、そのままだと冷たい、暗い感じになる可能性が高い(図1,2)。このイメージを避けるには、観葉植物などを置くと生き生きとした空間に変質する。

 メンタルモデルに基づいてデザインする際、メンタルモデルを構成するFunctional modelとstructural modelの観点から検討しデザインをすれば問題はなかった。しかし、深く考察してみると従来のメンタルモデルに関する姿勢は、コンクリートの打ち放しの空間に相当するのではと思うようになった。つまり、ユーザの精神面での満足が必要なのである。言ってみれば、コンクリート打ち放しの通路を歩くとき、殺風景で潤いが無いが、そこに観葉植物などの人間との心理的距離感の短いオブジェクトが置かれていると潤いが生じ、楽しい気分になれる。メンタルモデルでも同様に操作時に満足感、楽しくなるような配慮、例えばUX(user experience:ユーザ体験)が必要であろう。デザイン上の様々な工夫やユーザと製品・システムとのやり取りはUXに繋がっていくので、UXの視点は重要である。

 従来、メンタルモデルとUXは別々に考えられ対応されていたが、メンタルモデルは操作を行う上での基本的な骨格でもあるので、これにUXを包含させると相乗効果が見込まれると考えている。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

関連記事一覧