第53回 物語性について考える(8)

2014.12.19 山岡 俊樹 先生

物語の階層性

 今までの物語は、モノを中心に見てきたが、今回はモノにかかわる人、オブジェクトやシステムについて考えたいと思う。まず、商品がユーザに届くまでの流れにある販売、物流、企業に焦点を絞って考える。

(1)販売
商品を販売するときにかかわるサービス提供者がまず考えられる。彼らの製品を説明する内容や態度により、顧客は物語を感じるであろう。例えば、この商品はこういう人たちが苦労して作ったものだとか、私はこの商品を使っていて、こういう点で重宝しているなどと聞くとその商品に関する物語を感じ、共感を呼ぶであろう。このように、その商品のもともと持っている意味性に別の意味性を追加することにより、新たな解釈が成り立つためである。物語に包まれている商品が多いと顧客はそのお店での買い物が楽しくなり、お店側は顧客に時間を売っていることとなる。

(2)物流
商品を企業から小売まで搬送する物流に関する事項である。様々な工夫、苦労話が顧客の共感を呼ぶ。

(3)企業
次に、その商品を作っている会社なり組織との関係を見てみよう。

①企業のベクトルを示す、創業の方針、創業者の考え方、経営者の方針、経営方針等が物語の第一の柱である。

②組織内での活動である、製品を開発した時の様々な事項、あるいはそれに関係する様々な事項、設計方針、デザイン方針などが第二の柱である。

③企業が顧客に向けた情報発信である、CS (顧客満足、customer satisfaction)、ユーザ参加型デザインなどが第三の柱である。

④企業と社会との関係が第四の柱である。社会貢献、CSR(企業の社会的責任、corporate social responsibility)などである。

 以上のプロセスはブランド構築とも関係が深い。ポルシェやBMWのような車はデザインイメージが統一され、企業の理念やモノづくりの方針などの物語に消費者は共感を得ている。

 人々の生活水準が上がり、単に機能を満足する製品は顧客を満足させる存在でなくなっている。このことをマズローの欲求5段階説に基づいて説明すると、下位の生理的欲求、安全欲求、社会的欲求に対し、主に製品機能の充足が対応し、人間工学が支援するという構図である。下位の欲求が満たされると、人間の欲求は更に上位の尊厳欲求、自己実現欲求へ向かう。これらの欲求にデザインが対応していたが、色、形だけでなく、デザインの意味性が問われてきているのである。この意味性を充足させるのが、UX(ユーザ体験)であり、物語である。このUXや物語は急にここ何年かで出現したわけではなく、昔に目を転じると八百屋で店員が「この林檎はどこどこ産で美味しいよ」(物語)などと叫んで、試食(UX)もさせてくれた。昔、製品をデザインする際、強く意識をしていた訳ではないが、デザイナーはUXも考えてデザインしていた。時代が変わり人々の生活水準が上がり、UXや物語に注目され始めたということである。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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