第22回 人間を把握する(4)

2018.03.26 山岡 俊樹 先生

 国際会議で発表のためマレーシアのクチン市(ボルネオ島)に現在いる。赤道に近い緯度なので、かなり暑いのではと思っていたが、それほどではなかった。大昔、シンガポールに行ったときの熱風の印象が今でも蘇ってくるが、クチンはそれとは違っていた。

 この街で気が付いたことを紹介したい。

1.自動車優先の考え方のようである。
 交通信号があまりなく、信号なしでスムーズに自動車が流れるように設計してあるようだ。例えば、T字路の場合、写真1のような構造になっているが、横断歩道がない。歩行者は横断歩道がないので、写真2のように横断をしていた。

 横断歩道があるところでは、歩行者用信号点灯スイッチがあり、押すと比較的早く、音付きで点灯されるが、12秒程度ですぐ消えてしまう。

 ある歩道に駐車していた車が数台あり(写真3)、歩行者は通行できない状況であった。どうも自動車優先の社会のようである。


 写真1 横断歩道がない


 写真2 道路を横断する


 写真3 歩道に駐車

2.ホテルの客室清掃員(女性)が室内では素足で作業
 部屋の前で靴を脱いで、素足で作業をしていた。どういう理由かよくわからないが、作業の利便性のためであろうか?客室に土足で入るのは不衛生という理由であろうか?

3.コミュニケーションのストレス無し
 言語上のストレス無しではなく、人々の態度である。農耕民族で気候が温暖という特性であろうか。

 今回、高級ホテル(と言っても非常に安い)に宿泊したことも影響しているだろうが、従業員は純朴で微笑みで対応してくれた。その他のお店でもストレスは感じなかった。また、街の中を歩いた時、道が分からなくなり、通りがかりの人に聞いたが、皆さん親切に教えてくれた。レハールのオペレッタ「微笑みの国」という中国を舞台にしたウイーンの伯爵令嬢と中国の王子との悲しい恋の物語があるが、ここでの人々の微笑み・親切と、19世紀、この地域に英国人のラジャ(王)が誕生したことがダブり、その微笑みの国のイメージが膨らんだ。

 たかだか5日間程度の滞在で、表面的な理解かもしれないが、我々が持っている20世紀型のモダニズム、幸福感を超えた何かがこの地域ではあるような気がした。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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