第59回 制約条件を考える(5)


2015.06.29 山岡 俊樹 先生


 制約には以下の種類がある。

①社会的制約
②空間的制約
③時間的制約
④人間に係る制約(思考、運動)
⑤製品・システムに関わる制約

 この5つの関係を図示する。

 社会的制約とは、我々が所属している社会が我々に与えている制約である。この社会は階層構造になっていて、家族、所属組織、地域、国などのレベルから地球レベルの社会まで考えることができる。空間的制約とは、我々が空間から受ける制約である。空間も社会と連動しており、家族→住空間、所属組織→労働空間、地域→地域空間などである。空間からは身体的面と精神面の制約を受ける。時間的制約は時間の持つ制約である。時間は客観的と主観的な時の流れがあるが、本論では両者を包含したものと捉える。人間に係る制約は、その思考や身体運動などの制約を言う。37年前に米国のロサンゼルスのUCLA(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)に行った際、そこの男女の学生が大学の建物の階段で座り込んで話し込んでいたシーンを目撃し、驚いた記憶がある。当時の日本ではそのようなことははしたないと考えられていたためである。今では、日常風景になってしまった。この事例は社会的制約でもある。製品・システムに関わる制約は、製品やシステムが持つ制約を言う。例えば、600ccのエンジンを持つ自動車では、その機能から時速300kmを出すことのできない制約を持っている。

 制約条件は先程述べたUCLAの例のように時代と共に変わる部分があることを認識する必要がある。人間の身体運動能力はあまり変わらないが、思考や価値観に係る制約条件は時代とともにかなり変わってきた。すると人間の思考や価値観と関係が深い社会的制約も連動して変わってきたのが分かる。この5つの制約は人間を中心とした見方として捉えることもでき、時代と共にお互いに影響を与えながら変化してきたと言えるだろう。

 京都市内に下図のようなゴミ箱が設置されている。普段、気に留めていなかったが、あるとき、そのデザインの矛盾を感じた。円筒状の形状であるが、ゴミを入れる投入口が3ケ所あり、瞬間にわからない。また、この投入口に透明のプラスチック板が丸いリングを介して、本体に止められている。このため、隙間ができデザインの完成度を下げている。更に、本体からゴミを収納する透明のゴミ袋が露出して見苦しい。この製品に対して、ユーザの視点から前述した5つの制約から検討してみよう。

①社会的制約
 ゴミはゴミ箱に捨てるという社会的制約があり、このゴミ箱の存在意義がある。

②空間的制約
 京都の街の中に置かれるという制約からゴミ箱の本体色は黒にし、周囲と違和感のない円筒状のデザインにしたものと思われる。

③時間的制約
 長期間設置されるので、本体に金属が使われている。しかし投入口に取り付けられている透明のプラスチック板は時間が立つと変色するので、その場合取り替えるのであろう。

④人間に係る制約(思考、運動)
 本体が円筒状で黒色なので、投入口がわかりにくい。ユーザのゴミ箱に対するメンタルモデルから考察すると、街中に黒い円筒の物体があればゴミ箱と認識するだろう。海外でも黒色で円筒状のゴミ箱を見たことがあるので、海外の観光客でも認識できるだろう。

⑤製品・システムに関わる制約
 海外ではゴミ回収車がゴミ箱を持ち上げて、回収車に収集している。京都では透明のゴミ袋でゴミを収集しているので、作業員が手作業で回収していると思われる。

 以上から制約条件に基づいて、分析すると3つの問題点がある。

①ゴミ投入口がわかりにくい。円筒形状にしたので、しかも黒色なので近くに行かないとわからない。
②ゴミ投入口の形状と蓋の役割をしている透明プラスチック板との関係デザインが良くない。最初から蓋の検討しておれば、このような取ってつけたようなデザインとはならないだろう。蓋がヒンジで固定されていないので、蓋の機能を十分行っていない。多分、当初は、透明プラスチック板はなくデザインされたが、雨などの対策で追加処置として取り付けたのかもしれない。
③ゴミ袋が本体から露出している。

 デザインする際、形から発想するのではなく、デザインする上で必要な制約条件(前提条件)を明確にする。そのためには事前の調査が必要である。街中でゴミ箱を設置する際の問題点を観察や関係者からのインタビューを行う。余力があればデザイン案の評価を行っても良いだろう。制約条件から要求事項を整理する。このゴミ箱ならば以下の通りとなる。

①形状から即、投入口が認識できる。→(案)三角柱の形状が浮かび上がる。
②投入口の蓋を検討する。→(案)三角柱の形状ならば、平面な金属板でヒンジを取り付けられる。本体が円柱形状でも可能であるが、コストアップになりそうである。
③ゴミ袋を本体に内蔵させる構造にする。

 いずれにせよデザインを行う際、制約条件を見極めることが重要である。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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