第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)

2023.12.4 山岡 俊樹 先生

 思い込み(固定概念)の発生は、時間軸上で理解することができる。中川吉晴によると、我々の祖先が自己の境界が明確でなかった時代、「自己の境界は柔軟で、浸透性が高く、そのため自己の同一性はつねに他の存在に浸透され、容易に他の要素と交じり合い、それによって豊かなものになっていったはずである」(気づきのホリステック・アプローチ,P.37,駿河台出版社,2007)。そのため他の人々や自然との交わりが重要になっていた。これは狩猟時代の状況であっただろう。しかし、農耕社会になると自分と他人との境界が意識されるようになり、自我(ego)が生まれた。自己の境界線が強く意識されるようになった現在では、利己的な考え方が幅を利かすようになり、思い込み(固定概念)が生まれる土壌となっている。確かに、環境から切り離された存在となると、自己防衛に陥りやすくどうしても利己的、自己中心性になる。そこで思い込みが生じる可能性が出てくる。森の中で生活するなどの状態では、その環境と一体となり自己の存在が薄まり自己中心性はなくなっていくだろう。

 この自己中心性から解放させるのが内観である。内観は吉本伊信(いしん)が開発した自己探求法である。その方法は身近な人々との関係を以下の3つのテーマについて、自分の歴史を調べることである。
①世話になったこと
②して返したこと
③迷惑をかけたこと
 身近な人、例えば母親などを対象にして行うが、自分自身を他人の目から見ることでもある。約20年前にこの方法を知り、なかなか良い方法だと思った。多忙なビジネスマンにとって自分自身を顧みるということはなく、長い人生で一度自分自身を内観でリセットすると新たな視野が広がる。(三木善彦,心の宝と出会う本―内観であなたも生まれ変わるー,内観双書,2008)

 思い込み(固定概念)もその出自は自分の価値観であり、自己中心性の外延に位置づけることができる。内観では他人の目から自分自身を見ることであるが、自分自身で自分の認知活動を見るのがメタ認知である。
 思い込みは認知活動であり、これを見るのがメタ認知である。しかし、きっかけがないとメタ認知をすることはあまりない。身近な人の死などのきっかけで、故人に対する自分の態度・対応などを考えることはあるだろう。

 メタ認知は自分の認知に対して見るので(図1)、知識と経験が必要となる。知識と経験がなければ、判断情報がないので、自分の認知に対して何も評価せず、自分の信念になっていくのかもしれない。


 認知活動の1つとして、メンタルモデルがある。機器を操作するときの操作イメージをメンタルモデルとして定義すると、メンタルモデルにはファンクショナル・モデル(Functional model)とストラクチュラル・モデル(Structural model)がある。前者は操作するときの手順であり、後者はその構造である。操作するときに思い込みがあると正しいメンタルモデルを作れず操作ができない。図2は正しいメンタルモデルを持っていても、デザインが悪いと間違って操作をしてしまう例である。通常、水の流れに沿って蛇口で水量調整する操作がステレオタイプだ。図2の場合、水の流れに沿って操作するのが温度調整で、それに対して90度回転させて操作をするのが水量調整となっている。台湾、台南のホテルのトイレにこの蛇口があり、最初いくら操作しても水が流れなかった。一緒にいた台湾の先生から教えてもらい操作したという経緯がある。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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