第21回 人間を把握する(3)
2018.02.20 山岡 俊樹 先生
オペラ作曲家として有名なジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi、1813年―1901年)をご存知であろうか?「椿姫」「リゴレット」「アイーダ」などのオペラで知られているが、彼が80歳を前にして最後のオペラ「ファルスタッフ(Falstaff)」を作曲した。この時、ヴェルディはなぜ80歳前にして、作曲したのかと質問された時、私の作品は失敗であり、常に完全を求めたい。------云々と述べたとある本に書かれてあった。
完全を求めるには、中途半端な気持ちでは不可能である。なぜ、中途半端な対応を取ってしまうのであろうか?小さな目標が多数あり、何をすべきか明確でないためである。あれもしたい、これもしたいという状況ならば、やりたいことを絞りこむ勇気が必要である。絞り込んで大きな目標を定めることである。安月給だから、副業に精を出すというのも悪くはないが、本業が疎かにならないだろうか?本業で頑張って、高給取りになるのが合理的な考え方である。学生がバイトに明け暮れていたら、本業の勉強が疎かになるだろう。こういう状況で、学生は果たして希望する仕事につくことができるのであろうか?理屈から言えば、今の自分にとって何が大事か?そのためにすべきことは何か?そう絞り込んでいけば、行うべきことと、すべきでないことの峻別ができるはずである。これも一種のシステム思考である。しかし、生身の人間であるので、理屈は分かるが、当面自分のしたいことにウエイトを置いて、脱線する場合も少なくない。一度、失敗体験をしないとなかなか自分の状況を客観視できないものである。かく言う私も苦い思い出がある。20代の頃、人生の視座が定まらず、様々なことをしたが、はっきりと定まったのは30代に入ってからだった。そのとき、悟ったのが凡人には両立は無理ということであった。それ以来現在まで、ぶれてはいない。
ある本を読んでいたら、好きだから何かをやるのではなく、やるから好きになる、云々と書かれてあったのを思い出した。好きになれないことでも、行い続けると好きになるものである。中学、高校時代、国語に対し論理的というよりも感覚的なとらえ方を国語の教師から教えられた記憶があり、どうしても好きになれなかった。しかし、社会人になり、1981年に出版された木下是雄著『理科系の作文技術』を読んで、国語の論理性に目覚め、今では苦手意識はなくなっている。
絶対ではないが、どうも我々凡人は愚直に夢中に何事も行うと好きになり、それが本格化する可能性が高い。しかし、ヴェルディの域までたどり着くことができるのだろうか? 道のりは長い。
出典:中公出版(1981)理科系の作文技術 木下是雄/著
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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