第47回 温かいデザイン(23)
2020.08.31 山岡 俊樹 先生
人間との共存を考えて平凡であるが、心温まるデザインではダメなのか?このような視点で、我々の周囲を見ると温かいデザインに結び付くような様々な萌芽を見ることができる。今回この萌芽例を紹介したい。思いつくまま羅列しても分かりにくいので、モノ、コト、空間(エクステリア、インテリア)、時間に分類して説明する。
(1)モノ
コンビニ・ローソンは今年5月からプライベート商品のパッケージデザインを一新した(図1)。牛乳などの日常の食品はベージュピンク、総菜や菓子はクリーム一色にしている。確かに置かれているコーナーに目を転じると他のナショナルブランドの商品は文字を大きくして、買ってくれと絶叫しているように見えるが、この新デザインはシンプルであっさりして共感を持てる。このことを紹介した日経デザイン(2020年7月号,p8-9)の記事を読むとローソンの企業理念である「人への優しさ」や「環境への優しさ」を製品に反映させ、食卓に置いても違和感が無いように配慮したとか。
(2)コト
コトは"―――すること"なので行為となって見え体験となる。京都四条通りから川端通を三条に向けて数分歩くとチョコレートを売っているカカオマーケットがある(図2)。地下にAngel Libraryというレストランがあり、ここに行くにはいったん外に出て建物の脇にある入り口から入っていかねばならない。しかも、そこに行くには、ドアを開ける暗証番号を書いた紙を事前にもらわなければならない。暗証番号を入力して、入室すると天国の図書館というコンセプト通りの空間が目に入る。いろいろな事情で不利な条件でも、逆手に取って意味づけをし、効率を超越した楽しい体験に仕立てている。
(3)建物のエクステリア
モダンデザインは装飾過多の伝統的建物から峻別する為、シンプルで訴求力の強いデザインを志向してきた。更に建築家の作家性というベクトルを前面に押し出しているので、建物のデザインはバラバラで都市としてのまとまりがなく、先ほどのローソンの例で挙げた他社のナショナルブランドのように自己主張をしているようである。建築家ロバート・ヴェンチューリ(1925-2018年)のデザインした米国・フィラデルフィアにある低所得者向け高齢者アパートのギルドハウス(1963年)は、モダンデザインに対抗した全く平凡なデザインである。建築家としていろいろな意味を盛り込んでいるが、私の感想は平凡であるが、何か味のある懐かしい建物として感じる。
(4)建物のインテリア
インテリアは人間との接点の強い存在なので、それほど個性の強いデザインはないが、ブランドショップを見ると非日常空間を演出している為か、取り澄ました冷たい空間に見える。一方、スターバックスのインテリアはサードプレイスのコンセプトの為、居心地の良い、落ち着いた空間となっている。北欧のインテリアは木材を多用し、豊かな落ち着いた空間を作っている。例えば、フィンランドのアルバー・アールトの一連の建築のインテリアは温かみのある、癒しを感じる豊かな空間である。誰もコンクリートの打ち放しの空間がクールでモダンと言っても、住みたくないだろう。
(5)時間
ここ10年、地方移住希望者が増えている[1]。移住とはライフスタイルを変えることであり、ゆったりした時間を過ごしたいという願望の表れであろう。哲学者の内山節は、「――最後に残された非システム的社会の一つとして、家庭をしっかり残しておくことのほうは、よっぽど意義があるはずだという気がぼくにはするのですが、―――」[2]と述べているが、地方移住希望者はこの非システム的社会を地方に見出しているのだろう。
近代主義という効率を重要視する世界では、非効率は悪いことになっている。以前、ホテルのチェックアウトで友人とフロントで待ち合わせをしたが、1-2分遅れたらかなりイライラしていた。人々は無意識に効率という呪縛にとらわれているのだろう。しかし、効率の過剰な追求の反動で、脱効率に意義を見出し始めている人々が増え始めている。時代の変化に敏感であるアートの世界でも、脱効率の動きがある。2018年にMOMA(ニューヨーク近代美術館)にて、BODYS ISEK KINGELEZによるCITY DREAMSという展示会が開催された。偶然、見る機会を得たのだが、効率に支配されたガラスと鉄による都市から、感性豊かで、おおらかな都市空間を提案されていた(103回の温かいデザインで紹介した。2019年5月)。どうもこのような様々なムーブメントが効率化という波に立ち向かっているのが、現状のように思われる。
文献 [1] https://www.soumu.go.jp/main_content/000496759.pdf [2]内山節、自然・労働・共同社会の理論、p101,社団法人 農山漁村文化協会、1989
図1 ローソンの新パッケージデザイン
図2 カカオマーケット
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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