第40回 温かいデザイン(16)

2019.12.26 山岡 俊樹 先生

 伊勢うどんは、江戸時代の伊勢参りの長旅のことを考え、食べやすいようにうどんを柔らかくしたと耳にした。このような心配り、思いやりも温かいデザインのカテゴリーに入るだろう。温かいデザインとは、以前のコラムで「温かいデザインを行うことは、ユーザと心を通じることでもあるので、表面的なアプローチをするのではなく、本質を考えてデザインすることである。」と定義したので、この文脈で考えるとこの伊勢うどんも温かいデザインである。

 そう思うと制作者の意図が明確でそれがユーザに伝わるような製品は、たとえ冷たい素材を使っていても、温かいデザインとして伝わる。温かいデザイン=共感のあるデザインともいえよう。近江商人のビジネスモデルとなった三方よしも今までの話の流れからすると同様の意味をもつだろう。三方よしとは売り手と買い手だけが良いのではなく、世間も良い(社会貢献)となることを目指すビジネスのベクトルをいう。現在のビジネスでも従業員のモチベーションを上げるための従業員エンゲージメントが盛んに検討されているし、社会貢献ではCSR(企業の社会的責任:corporate social responsibility)が根付いてきているといえる。このようなビジネスの流れは、温かいビジネスという水脈が江戸の昔から脈々と現在まで流れてきているのかもしれない。温かいビジネスから温かいデザインへという文脈から、現状のビジネスやモノづくりの事象を説明できる。勿論、弱肉強食のビジネスの世界もあるが、様々な制約がかけられることにより、温かいビジネスに向かうのではないかと考えている。人類の歴史はある一面からみると制約をかけてきた歴史でもある。このように考えると絵空事の見方でもないだろう。

 図2は奈良の古本屋で購入時に店主が、雨が降っているので本が濡れないようにと、ビニール袋の開口部をテープで留めてくれた袋の写真である。たかだかテープで留めただけであるが、顧客のことを考えてくれた末の判断で感激した。

 伊勢うどん、古本屋の思いやりは、モノだけでなくコトの重要性を認識させてくれる。温かいデザインは見た目だけではなく、本質は製作者や関係者の温かい心が前提になるのであろう。大量生産でも同様で、関係者の思いはユーザに届くだろう。最近考えていることであるが、それはそのものの存在感ではないかと考えている。次回、存在感について述べてみたい。

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