第96回 ホリステックな考え方(6)
2024.10.1 山岡 俊樹 先生
今年9月13日(金)、第26回日本感性工学会大会の新・企画セッションで「モノ・コトの本質を探る」というテーマでヒューマンデザイン・テクノロジー研究部会のメンバー4名と発表を行った。このテーマの根底には分析的思考から全体論的思考への潮流があると考えたためである。工学系の学会では、モノ・コトづくりに係る研究発表はほとんど分析的思考に基づくものだろう。ある現象を分析した、ある条件で実験したらこうなったという世界である。因果関係が比較的はっきりした世界である。
しかし、将来の予測が困難なVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代では、ビジネスチャンスとなる因果関係を新たに見つけるには、分析的方法では困難で、全体論的な方法でないと難しい。というのは因果関係を推測して、あるいは与えられて、初めてその関係を解明するのが分析的方法である。例えば、ビジネスマンがなぜリュックサックを活用しているのか?両手が自由になる、多くの荷物を運べるなどの理由を類推することができる。厳密にそれらの関係を調べたいならば、アンケートを行い、その理由を聞けばよい。さらに定量的に把握したい場合は、統計ソフトを使えば可能である。
このような因果関係が容易に類推できたり、与えられていたりする場合は問題ないのだが、逆に新たに因果関係(例えば、ニーズ、生活、社会動向など)を探す場合はどうだろうか?「人々の生活を豊かにするものは何か」などの場合はテーマが大きすぎ、従来の分析的方法ではなく全体論的な視点からのアプローチが必要になる。例えば、京都の町屋の戸や窓に使われる格子を見るにはミクロの視点であり、京都全体の街並みを把握するにはマクロの視点が必要となる。従って、ミクロは具体的であり、マクロは抽象的である。今回紹介するホリステック・システムデザインはマクロ情報を分解してミクロ情報へ絞り込んでいく手法ともいえる。
今回の学会では、以下に述べるホリステックな方法を紹介した。
ホリステック・システムデザインの定義:
ホリステックの視点から対象システムの本質を探り、イノベーションを創出し、それをシステム思考により、具現化を行う
以上の定義から
①ホリステックの視点から対象システムの本質を探り→対象の把握
②イノベーションを創出し→イノベーション
③それをシステム思考により→システム思考
④具現化を行う→新ビジネスなど
という構造となる。
以下、この4項目について詳説するが、これらの項目を成り立たせるには、①フレーム+用語(300語)と②目利きである。
①フレーム+用語(300語)
思考するには知識と経験が必要である。例えば、イギリスの農村部の人々の思考を紹介しろといわれても、ロンドン、バーミンガムやグラスゴーの都市で数泊した程度の知識と経験しかない私には全然分からない。しかし、文献などを読めばある程度は説明できるだろう。絶対ではないが、ここに知識(用語)の有効性を見ることができる。
フレームは考える枠組みのことで、開発手順や具体化のための方法である。用語はモノ・コトづくりに必要な用語を中核に社会や経済などの考えるうえで必要な用語が加えられた300項目である。
このフレームと用語により、論理的に思考、発想することが可能となる。
②目利き
以前はフレームと用語(300語)で十分といわないまでも、結構いけると考えていた。しかし、製品やシステムの改良ならば問題ないが、イノベーションの提案となると目利きのレベルが必要だ。
原田勉、「イノベーション戦略の論理」(pp.59-60, 中公新書, 2014)によると、狭い範囲に特化し、深掘りさせると、それにより汎用性を獲得するという。私自身、ヒューマンエラーの目利きというほどではないが関心があり、この種の国の委員もした。この300項目のなかにヒューマンエラーやインタフェースなどの項目があり、これが人間関係、組織の改善などにも活用できるということが、あるとき分かった。
我が国の産業の勢いのなさは、この目利き不足ではないのだろか?大学院では幅広く学び、一芸に通じた目利きを教育する必要があるのだが、企業の受け入れ態勢はそうなっていない。平等主義が蔓延している。
図1 フレームと用語が目利きを育てる
次回は、以下の項目を紹介する。
(1)対象の把握
(2)イノベーション
(3)システム思考
(4)新ビジネスの流れで実現する
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