第52回 物語性について考える(7)
2014.11.27 山岡 俊樹 先生
UXと物語
ユーザが製品を使い、良い感覚が生じた場合、良い感情となり、UX(ユーザ体験)として体の中に蓄積される。このUXによる良い感覚は、①非日常性の感覚、②獲得の感覚、③タスク後に得られる感覚、④利便性の感覚、⑤憧れの感覚、⑥五感から得られる感覚などが考えられる。これらの感覚はアンケートにより抽出されたもので、その内容は以下の通りである。
①非日常性の感覚:イベントや旅行などで得られる非日常性の感覚である。
②獲得の感覚:商品を購入したときや贈り物を貰った時に得られる感覚である。商品の機能が良い、デザインが斬新などの品質が必要である。
③タスク後に得られる感覚:達成感、充実感等の感覚で、操作ができた、仕事をやり終えた時などに得られる感覚である。
④利便性の感覚:製品・システムを使った時の便利さを得られる感覚である。
⑤憧れの感覚:ブランド品などに対するあこがれの感覚である。
⑥五感から得られる感覚:暖かい布団で寝る、好きな音楽を聴くなどの五感から得られる感覚である。
上記の感覚は大まかに3つのグループに分けることができる。
(1)行為をしているときに受ける感覚
利便性の感覚、五感から得られる感覚
(2)行為を終えたときに受ける感覚
獲得の感覚、タスク後に得られる感覚
(3)ある存在から受ける感覚
非日常性の感覚、憧れの感覚
非日常性の感覚、憧れの感覚の感覚は、あるイメージができているので物語に容易につながりやすい。一方、利便性の感覚、五感から得られる感覚と獲得の感覚、タスク後に得られる感覚は、物語につながる手がかり情報をユーザに与えると物語につながるのが容易となる。今日、大学の研究室にPCが届き、液晶モニターの 2分割された脚の部分をつなげることとなり、ドライバーが必要かなと思っていたら、写真のようなネジ部分にネジを回すパーツがあり、非常に簡単に締めることができた(図1)。この時感じた体験が利便性の感覚である。良くデザインがされているなと感じたのであるが、このとき「当社は*******にいろいろ配慮しています」というような物語につながるようなメッセージが製品やマニュアルなどにあれば効果的であろうなと思った。スーパーの青果売り場で、生産者の顔写真が表示され「******に配慮して作りました」などと訴えるPOPがある。これの効果として、購入して食べたとき、食中、食後のおいしいと感じられる感覚がPOPの情報から憧れの感覚などが生じるだろう。
いずれにせよ、体験止まりだと良かったという印象で終わり、製品やシステムにまでその良い印象がつながらない恐れがある。体験だけで終わるのではなく、体験時に何らかの物語の手がかり情報を提供することにより、物語につなげることができると製品やシステムのイメージ向上やメーカへのロイヤリティにもつながる。
製品やシステムはユーザがある目的を達成するために必要なものなので、ユーザはその製品に対し継時的に係るが、特に使用前、使用中、操作後について焦点を当てて考えてみると、この3段階でユーザの身体面、精神面からユーザに体験を提供できるようにデザインすることがポイントであるのが分かる。前述した6つの感覚は身体面と精神面が包含されているので、適宜該当する感覚を製品・システムに埋め込めば、UXを感じさせるデザインとなり、更に物語に関する手がかり情報を提供することにより物語にもつながるだろう。このような対応により製品・システムは魅力ある存在へと変身する。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
関連記事一覧
第102回 ホリステックな考え方(12) 全体と部分の関係
第101回 ホリステックな考え方(11) 目利きの能力
第100回 ホリステックな考え方(10) 絞込み思考
第99回 ホリステックな考え方(9) 目利きの重要性
第98回 ホリステックな考え方(8)
第97回 ホリステックな考え方(7)
第96回 ホリステックな考え方(6)
第95回 ホリステックな考え方(5)
第94回 ホリステックな考え方(4)
第93回 ホリステックな考え方(3)
第92回 ホリステックな考え方(2)
第91回 ホリステックな考え方
第90回 思考の硬直・停止(その11)思い込み(固定概念)
第89回 思考の硬直・停止(その10)思い込み(固定概念)
第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)
第87回 思考の硬直・停止(その8)思い込み(固定概念)
第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)
第85回 思考の硬直・停止(その6)思い込み(固定概念)
第84回 思考の硬直・停止(その5)
第83回 思考の硬直・停止(その4)
第82回 思考の硬直・停止(その3)
第81回 思考の硬直・停止(その2)
第80回 思考の硬直・停止
第79回 ボリューム感
第78回 構成の検討
第77回 アクセントの効用
第76回 活動理論の活用
第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
第74回 チェックリストの活用法(5)
第73回 チェックリストの活用法(4)
第72回 チェックリストの活用法(3)
第71回 チェックリストの活用法(2)
第70回 チェックリストの活用法(1)
第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン
第67回 温かいデザイン(43) サービスデザイン
第66回 温かいデザイン(42) サービスデザイン
第65回 温かいデザイン(41) サービスデザイン
第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン
第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン
第62回 温かいデザイン(38) サービスデザイン
第61回 温かいデザイン(37) サービスデザイン
第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン
第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン
第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン
第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン
第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
第55回 温かいデザイン(31)
第54回 温かいデザイン(30)
第53回 温かいデザイン(29)
第52回 温かいデザイン(28)
第51回 温かいデザイン(27)
第50回 温かいデザイン(26)
第49回 温かいデザイン(25)
第48回 温かいデザイン(24)
第47回 温かいデザイン(23)
第46回 温かいデザイン(22)
第45回 温かいデザイン(21)
第44回 温かいデザイン(20)
第43回 温かいデザイン(19)
第42回 温かいデザイン(18)
第41回 温かいデザイン(17)
第40回 温かいデザイン(16)
第39回 温かいデザイン(15)
第38回 温かいデザイン(14)
第37回 温かいデザイン(13)
第36回 温かいデザイン(12)
第35回 温かいデザイン(11)
第34回 温かいデザイン(10)
第33回 温かいデザイン(9)
第32回 温かいデザイン(8)
第31回 温かいデザイン(7)
第30回 温かいデザイン(6)
第29回 温かいデザイン(5)
第28回 温かいデザイン(4)
第27回 温かいデザイン(3)
第26回 温かいデザイン(2)
第25回 温かいデザイン(1)
第24回 人間を把握する(6)
第23回 人間を把握する(5)
第22回 人間を把握する(4)
第21回 人間を把握する(3)
第20回 人間を把握する(2)
第19回 人間を把握する(1)
第18回 モノやシステムの本質を把握する(8)
第17回 モノやシステムの本質を把握する(7)
第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)
第15回 モノやシステムの本質を把握する(5)
第14回 モノやシステムの本質を把握する(4)
第13回 モノやシステムの本質を把握する(3)
第12回 モノやシステムの本質を把握する(2)
第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)
第10回 3つの思考方法
第9回 潮流を探る
第8回 システム・サービスのフレームワークの把握
第7回 構造の把握(2)
第6回 構造の把握(1)
第5回 システム的見方による発想
第4回 時間軸の視点
第3回 メンタルモデル(2)
第2回 メンタルモデル(1)
第1回 身体モデル
第70回 UXを考える(6)
第69回 UXを考える(5)
第68回 UXを考える(4)
第67回 UXを考える(3)
第66回 UXを考える(2)
第65回 UXを考える(1)
第64回 制約条件を考える(10)一を知り十を知る
第63回 制約条件を考える(9)
第62回 制約条件を考える(8)
第61回 制約条件を考える(7)
第60回 制約条件を考える(6)
第59回 制約条件を考える(5)
第58回 制約条件を考える(4)
第57回 制約条件を考える(3)
第56回 制約条件を考える(2)
第55回 制約条件を考える(1)
第54回 物語性について考える(9)
第53回 物語性について考える(8)
第51回 物語性について考える(6)
第50回 物語性について考える(5)
第49回 物語性について考える(4)
第48回 物語性について考える(3)
第47回 物語性について考える(2)
第46回 物語性について考える(1)
第45回 適合性について考える
第44回 制約条件について考える
第43回 サインについて考える
第42回 さまざまな配慮
第41回 表示を観察する(2)-効率の良い情報入手-
第40回 表示を観察する(1)
第39回 さりげない“もてなし”を観察する(4)
第38回 さりげない“もてなし”を観察する(3)
第37回 さりげない“もてなし”を観察する(2)
第36回 さりげない“もてなし”を観察する(1)
第35回 「結果-原因」の関係から人間の行動を観察する
第34回 「目的-手段」の関係から対象物を観察する
第33回 マクロとミクロの視点で観察する(2)
第32回 マクロとミクロの視点で観察する(1)
第31回 階層型要求事項抽出方法-REM(2)
第30回 階層型要求事項抽出方法-REM(1)
第29回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する (2)
第28回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する(1)
第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
第26回 サービスを構造的に観察する(3)
第25回 サービスを構造的に観察する(2)
第24回 サービスを構造的に観察する(1)
第23回 事前期待と事後評価の差分からサービスの評価を行う
第22回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(3)
第21回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(2)
第20回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(1)
第19回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(7)
第18回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(6)
第17回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(5)
第16回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(4)
第15回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(3)
第14回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(2)
第13回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(1)
第12回 70デザイン項目とアブダクション
第11回 世の中の動向、ファッションを観察する(2)
第10回 世の中の動向、ファッションを観察する(1)
第9回 俯瞰してHMIを観察する
第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
第7回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(2)
第6回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(1)
第5回 直接観察法について-自然の状況下での観察-
第4回 観察を支援する70デザイン項目について知る
第3回 人間について知る-多様なユーザの特徴を理解する-
第2回 人間-機械系について知る-HMIの5側面-
第1回 観察の方法