第65回 UXを考える(1)

2015.12.21 山岡 俊樹 先生

 我々は様々な体験(ユーザ体験:UX)を通じて、感激したり、失望したりしている。21世紀でのモノ作りでは、このUXの考え方が重要視されている。Jay Greene著、Design is how it works,Portfolio,2010という本を研究室の学生と共に読んだのだが、この本にはUXの良い事例が紹介されてある。米国のACE Hotelは、客室を売る商売でなく、ヒトとの触れ合いの舞台とすべく、ホテルは体験を提供するビジネスと再定義している。また、航空会社VIRGIN ATLANTICでは、創業者のブランソン氏は乗客を目的地まで運ぶのではなく、住宅にいるような居心地の良い体験を乗客に提供するように実践している。

 安いビジネスホテルでも、安かろう、悪かろうでは、顧客は満足せず、それなりのUXを提供しないとビジネスが成立しない状況がすぐ近くまで来ている。ホテルの客室でつくづく思うのは、寒々しい印象の部屋が多いのはなぜであろうか?単なる効率的な部屋貸という企業戦略なのだろうか?勿論、インテリアにお金をかけられないという理由があるにしても、何かが足りない。UXという気の利いた気配りが無いのである。UXは通常の状態から少し変化を加えるだけで良い体験を提供できる。室内全体をカラーコーディネーションするとか、コップなどの小物にも気をつかうなどを行うとUXが高まる。

 このようなUXの視点から、様々な小売りの店舗を見てゆくと、まだまだ不十分である。商品の展示が当たり前で、単にきれいに並べているに過ぎないと、思わざるを得ない。小手先の展示・販売テクニックではなく、顧客にどういう価値を提供する店なのか明確にする必要がある。そう決めると、自ずと何をすべきか具体的に考えることができる。コンビニやスーパーでの食品や飲み物にしろ、大半の顧客はお店に行く前に決めていくわけではないので、お店で商品選択情報が無く、適当に選択しているのが現状である。顧客は買い物をする際、最初に店舗の種類を選び、場所を絞り込むなど様々な制約条件を使って希望する商品を選択している。その際、効率よく、最適な商品情報を提供し、容易に商品を購入できるとUXを感じるのである。顧客に最適な商品情報を提供できるかが小売りの本質であり、今後検討すべき最大のポイントであろう。

 ある地方都市のコヒーショップで昼食をしたとき、メニューには食べ物の詳しい説明があり、室内の品の良いインテリアとともにUXを感じ、食欲が出てきた。注文すると、トレーにチキンサンドのバンズが別に置かれてあった(図 ランチ)。よくバンズがチキンや野菜の上にのせられて出てくるが、バンズに汁などがベタ付き気になっていた。この配慮がUXを生じさせた。更に、コヒーを飲んでいくとコップの内側にこのお店のマークが出てきて、驚き、またUXが生じた。こういう良いUXを連続して感じると、このお店に対する一種のイメージであるストリーをぼんやりと感じるようになる。こういうUXがベースとなり、リピート客となるのである。

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