第55回 温かいデザイン(31)

2021.04.28 山岡 俊樹 先生

 デザインの評価やモノの考え方は、その時代の枠組みの価値基準の中で行われる。デザインや建築をデザインする際、大きな枠組み(=コンセプト)を決めてから、その枠組みの中で詳細を詰めている。加藤秀俊氏はその著書(暮しの思想,p.107,中公文庫,1981)で「世界は「いれもの」の連続体であるようにみえることがある」と述べている。今、私が使っているPCは、現在住んでいる集合住宅の一室にあり、この住宅は東山区にあり、東山区は京都市にあり、更に京都市は日本国にあり、日本国は地球という世界に存在する。これらの関係は入れ子、つまり構造となっている。

 このようにモノゴトを構造的に捉えると現実に起こっている様々な事象を理解することができる。例えば、授業や実習で私が発したコメントを常に熱心にメモしている学生がいる。この事象を入れ子的、構造的視点から考えると、その行為を行わせている上位概念(目的)を推定できる。この場合、この学生は希望する仕事に就きたいため実力をつけるという上位概念があるので、自分にとって必要な情報と考えメモを取っているのである。逆に言えば、人生でやりたいことが明確になっている学生の勉学態度は積極的である。この考え方はシステムやデザインの開発にも応用でき、最初にその方針(目的)を明確にすることである。この目的を受けたコンセプトを厳密に決めれば、ほぼシステムやデザインの作業は完了したと言っても過言ではない。コンセプトに対し演繹的に「目的―手段」の関係から下位の項目が抽出されるからである。

 われわれの思考はその時代の大きな枠組みの中で検討され、枠組みを超えた世界は未知であるので、それから逸脱する可能性はほとんどないだろう。しかし、革新的な技術(といっても過去からの延長上での)やイノベーションにより、大きな枠組みは時間と共に変わるが、我々が思考するのはその変わった枠組みの中で行われるだけである。我々があるテーマで討議するとき、そのテーマに関するアイディアを入れ子構造から考えると、ある大きな枠組みから絞り出されたものと理解できる。発言者は革新的なアイディアと考えているかもしれないが、醒めた見方をすると既存の大きな枠組みの中の要素を結合しただけである。しかし、そうと言っても組み合わせによる斬新なビジネスモデルなどは確かにある。しかし、こういう斬新なアイディアは時間が経つに従い、その大きな枠組みも変わるので、この斬新なアイディアは陳腐化する。従って、あるシステムを継続させるには、大きな枠組みを見据えて、常にそのシステムを変えていかねばならない。 100年以上営業している京都のお店は、時代と共に変わってきたのであろう。「始めあるものは必ず終わりあり」という考え方があるので、長年継続しているお店は、ある時代で通用したビジネスモデルは、新しい枠組みの時代になると脱皮するように新しいビジネスモデルで変身してきたのであろう。そう考えるとモダンデザインの一部が温かいデザインになったとも言えそうである。


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