第48回 物語性について考える(3)
2014.07.29 山岡 俊樹 先生
モノづくりで、従来はその機能面の充足で十分であったが、その後デザインが導入されて、外観や使い勝手面が飛躍的に良くなった。しかし、更にユーザに感動を与えるには、あるいはユーザが求めているものを探すと、物語性や体験という考え方が浮上してきた。この状況はマズローの欲求5段階説で説明できる。つまり、現在は欲求の上位レベルに到達し、ユーザは商品やシステムに積極的にかかわり(アップルの一連の製品など)、自己実現に関与したがっていると考えることができる。あるいは、別の視点から考えると、製品やシステムを通して得ることができる価値が機能面・利便性から感性面・精神面に移っていると考えることもできる。これらの事項はディズニーランドの盛況さからも裏付けることができる。
さて、このような状況で、製品やシステムをどのように物語やユーザ体験とリンクさせてゆけばいいのか検討してみたい。製品に絞って考えてみると製品を構成するのが、①有用性(useful)、②利便性(usable)、③魅力性(desirable)の3側面である。この3側面から物語を分析することができる。以下、説明する。
①有用性:シャープの亀山工場製の液晶TVの例で、その機能の優秀性を伝えている
②利便性:ボルボやベンツの場合、その安全性や快適性を伝えている
③魅力性:ルイ・ヴィトンの場合、そのファッション性を伝えている
上記に挙げた製品は、もちろん3側面を満足させているが、特に突出している側面を紹介したものである。そして、これらは結果として、ブランド化している。
システムの場合、それの構成要素は多数があるが、要約すると上記の3項目にまとめることができそうである。例えば、①有用性はブランド化したある病気に特化した専門病院、②利便性はサービスが行き届いた高い評価を得ているビジネスホテル、③魅力性はディズニーランドであろう。
この3分類が有効であるとすると、逆に製品やシステムにこの3側面から物語を構築し、ブランド化することができる。製品やシステムが、その有用性を訴えることができれば、その開発物語や歴代の開発の考え方を訴えることができる。利便性にそのメリットを見出したならば、その良さを訴えてゆく。ただ単にその良さを訴えるだけでなく、その良さの根拠や会社や組織体の考え方も紹介することにより、訴えの補強をする。魅力性では特に感性面でのユーザの心をとらえられるような魅力を構築できるかがポイントである。この3側面に共通しているのが会社や組織体の方針が明確であり、それを提示することにより信頼を得ていることである。そして、これらの3側面に対して、時間軸上で戦略的に物語を構築してゆき、ブランド化させるのがポイントである。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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