第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン


2021.07.30 山岡 俊樹 先生


 思考するには「目的→制約→構造」という流れが合理的と考えている。詳しくは今秋開催される学会で発表予定である。制約という言葉から国立競技場のデザイン決定の混乱を思いだす。当初、建築家ザハ・ハディド氏のデザイン案が選ばれたが、工費の見積もりが膨らみ、最終的にデザインをやり直し、別の案が決まった。確か、TVあたりでコンペの審査委員長がデザインだから良いと思ったなどと述べていたが、とんでもない誤解である。発注元は完成後の運用計画、収支計画にしていなかったという。いずれにせよ、あまりに制約を考えずに建物、その運用をシステム的に考えていなかったのが露呈された。

 巷に上梓された発想法の本では、こうやればアイディアがどんどん出るなどと書かれているのが大半である。どんどんアイディアを出し、その後収斂させれば良いとも書かれてある。しかし、収斂させるときの基準(コンセプト)はどこで明確にするのか?この辺の記述は発散→収斂の流れを示すだけで、どういう基準で収斂させるのかは不明である。

 我々は様々な制約の中で生存している。重力、空気など自然の制約条件に適合する為、我々の人体の形状、構造が定まっている。恒温動物で寒冷地に住むほど体サイズが大きくなるというベルクマンの法則がある。これなども人類が自然に対応して生き残る戦術である。夏は暑いので、少ない服で過ごし、冬は寒いので多くの服を着用する。気温という制約条件に対応しているためである。飛行機や船舶の場合、機能面での制約条件が厳しいので、それらをクリアするため、徹底的に制約条件に対し検討している。仮にそれが不十分だと墜落し、沈没するからだ。しかし、建築やデザインの世界では、機能面だけでなく、精神面(意味性)での要素も大きく、そのバランスを考慮する必要がある。自然や機能の制約だけでなく、社会による制約もある。国立競技場の場合、使われるのは税金であり、造形的に素晴らしいから当初デザイン案の3500億でも良いとはならない。これはここまでコストをかける意味があるのかという国民感情のためで、これは社会制約である。

 我々の身の回りには目に見えない制約が数多くある。そのことを気付いていないので、自分は自由に発想できるなどと誤解をしている人が多い。会社の経営は、組織、販売力、開発力など数多くある制約に気が付いて、最適な判断を下すことである。ここで最初に述べた 「目的→制約→構造」の視点から考えると、企業の目的を明確にし、それから制約が絞り込まれ、会社の組織のシステムや製品の構造が定まる。例えば、あるメーカの目的が高級音響機器の提供ならば、それに対応した組織となり、製品は高級音響機器となる。安物の音響機器は作らない。多角経営で失敗するのは、本業と全く関係のない異次元の製品を開発するときである。本業ならば見える制約も、それと全く違う製品では見えない制約を把握できないため、失敗してしまう。

 京都の町家がウナギの寝床のような細長い長方形なのは、江戸時代にあった「間口税」のためである。この場合、目的は効率よく税金を集めるためで、制約は家の間口3間(約5.4m)ごとに税金をかけることである。この制約のため、建物の構造(細長く中庭のある建物)が定まった。車の場合、目的はコストパフォーマンスの良い車を作ることであり、制約は車のサイズにより、構造が定まる。勿論これに適合しない例もあるだろう。車が大型車の場合、それに対する構造として排気量の大きなエンジン、乗車者の増加、それによる車体の骨組みなどが定まってくる。

 次回は製品開発、デザインにおける制約について述べる。

 図1 京都の町家

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