第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
2012.10.03 山岡 俊樹 先生
仮想コンセプトは、9回目のところでその概要を紹介したが、今回、その方法を含めて詳しく紹介したい。仮想コンセプトとは、既存の製品、サービスやシステムに対する推測した設計コンセプトをいう。従って、デザイナーや企画者の製品やシステムの考え方、方針(コンセプト)を推測することができる。推測した仮想コンセプトとそのシステムの置かれている環境や文脈との差分があれば、それらを改善するのである。
例えば、あるバスで運転席の上に運転士名と安全運転をするという実際のコンセプトが掲げられていた。しかし、運転士は運転中、路上で同じ会社のバスが来ると必ず相手の運転士に向かって、片手を挙げて合図をしていた。安全運転というならば、合図は不要であるので、会社のマネージメントとして止めさせるべきであろう。運転士同士のコミュニケーションは別の機会を作ればよいのである。
図1 システムのコンセプトを類推するのが仮想コンセプトである
観察する際、手がかりとして観察対象のユーザ(顧客)・サービス提供者、製品やシステムに関する情報から観察対象のコンセプトを類推する仮想コンセプトを探る(図1)。9月に学会発表のために英国とオランダに行ったので、その時の観察を基に様々なサービスの仮想コンセプトを探ってみたい。
第25回で紹介したサービスタスク分析を活用して、顧客-機械(システム)、顧客-サービス提供者、時間、顧客-環境、サービス提供者-機械(システム)、マネージメント、の6側面からその特徴を記述し、仮想コンセプトを作る。以下に関空での出来事を記す。
関空で搭乗手続をするため自動チェックイン機の前で、急いでいたためか面倒なことをさせられると思っていたら、係員が気づいて、代行してくれた。システムの運用はうまくいっていると感じた。
一方、帰国での某空港では、関空と同じ会社の自動チェックイン機の前で、面倒だと思いつつサポートがないので操作画面を見ると、3項目が表示されていた。簡単に言うと表示の上から、1.パスポートの挿入、2.メンバー用の情報、3.予約番号の入力、のボタンが出ており、急いでいるのと一番上にある1.が重要だと判断し、2、3の項目をよく読まずに、パスポートで入力の操作をしたがエラーが出てしまった。以前、米国でパスポートを入力したので、そのメンタルモデルをここでも流用したのである。そこで、何十台もある機械に対して、唯一一名いる係員に状況を説明すると、3.から操作をしてくれたが、これもエラーであった。しかも、キーボードの表示数字がずれており、やっとの思いで入力してくれたのである。
そこで、隣の機械を使えばいいのを16番コーナー(従来の係員による入力)に行けと指示されて、一時間待たされてやっとボーディングパスを入手したが、今度は荷物の荷重が24.5kgなので23kg以内にしろと、また面倒をかかえてしまった。以前、30kgと聞いていたことがあるので問題はないと思っていたが、そうではなかった。それではどうすればいいのかと質問するとあっちへ行けと言うのみであった。そこで、そちらに行ったが表示が何もなく、いろいろ聞いて荷重を減らして荷物を受け取ってもらった。今回、ロンドンのwaterstone他で学術書を15冊購入したので、かなり重いが何とかなると思っていたが裏目に出てしまった。
また、この外国の航空機で感じたことは、きめ細かなサービスが期待できないということであった。例えば、機内で客室乗務員が急いで走るため通路側に座っている私の肩に何回もぶつかるが、当然と思っているらしい。また、帰国に際して税関申告書を配っていたが、1人づつ確認すれば良いところを適当に配っていた。もらい損ねたので言おう思っていたが忘れてしまった。良くあることなので、大きな不満ではないが、我が国の航空会社ではあり得ないことである。
この航空会社の欧州の空港の搭乗手続きシステムは、効率優先という仮想コンセプトを推測することができる。効率優先というのは悪いコンセプトではない。このコンセプトを推進するための支援項目がおろそかになっているのである。重量オーバーならばあちらに行けではなく、場所を特定し、そこでは何をすべきか表示しなければならない。自動チェックイン機で基本的に入力を行ってもらうため、しかもコスト的に一名の係員しか対応できないならば、チェックイン機のGUIをより分かり易くデザインすべきであろう。
以上のように、仮想コンセプトにより、様々な出来事を構造的に理解し、対策を立てることができる。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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