第79回 ボリューム感
2023.4.27 山岡 俊樹 先生
3次元立体の造形の基本は、①形状、②形状の流れ、③アクセント、④ボリューム感である(詳細は、拙著、デザイン3.0の教科書, pp.118-122, 海文堂出版を参照)。この4つのポイントを活用すると、まとまった魅力ある造形にすることができる。
①形状はできるだけ基本形状(立方体、直方体など)を考える。あるいは、これらの組み合わせである。②形状の流れは、面が流れる形状と面が独立した形状があり、その目的は中心性の獲得である。この中心性の獲得により形状としてまとまって見える。①形状と②形状の流れは、我々の生活・行動が四角い空間の中で行うために対応したものと考えている。ただし、モンゴルなどで使われているパオのような円筒状の空間もあるが、その数は圧倒的に少ない。我々が住んでいるのは四角い空間なので、この空間に調和するのは立方体や直方体の類であろう。我々は無意識に四角い家電製品や家具類を部屋の面に合わせて配置している。この配置は収まりがよく、心が落ち着くためだろう。これと類似した研究として、形について研究したゲシュタルト心理学がある。1950年代ごろまで盛んに研究され造形に関する有益な知見を残した。しかし、その裏付けが証明できず、この分野の研究は急速にしぼんだ。③アクセントは2回前のコラムに紹介した。造形全体を活性化させる効用がある。④ボリューム感は形状を豊かに見せるための方法である。一例として、ギリシャのパルテノン神殿、法隆寺金堂や唐招提寺金堂の柱はすっきりとした柱に見せるため、中央部を膨らませる、あるいは下部から徐々に上部を細くするなどの対処をしている。このような手法をエンタシス(entasis)という。
通勤電車は、その側面は平面で屋根部分を除けば、基本的に単純な直方体である(図1)。しかし、大都市圏では増加する乗客に対応するため、車体の幅を広げる必要が出てきた。そのまま幅を広げるとホームにぶつかってしまうので、車体下部を絞り込んだデザインが登場した。その結果、ボリューム感が出て豊かなイメージとなった(図2)。このような機能的要求ではなく、造形面での追求からか、側面中央部のみを膨らませた特急気動車などが出現している(図3)。この考えをさらに推し進めたのが、側面を円弧状にした500系新幹線である(図4)。一方、図5のオランダの電車は車体の上部(屋根)部分まで本体色を連続させているので、側面が平面でも貧相には見えない。各国の鉄道車両のデザインは、それほどグローバル化の影響を受けずに、その地域に合った独特のデザインとなっている。
同じ移動手段である自動車の場合、20世紀では国、企業ごとに独特のコンセプトの下、個性的なデザインが多かった。そこには各社の企業哲学が明確であった。しかし、ここ20年でグローバル化による国を超えた企業の合従連衡により、同じようなデザインの車になってしまった。地球上の大多数のユーザを相手にするようになったので、失敗が許されず同質のデザインになったのかもしれない。車の正面、側面を見ただけではどこの車かわからず、極端にいえばエンブレムを見て認識できる状況である。電気自動車になると各社同じ制約下でのモノづくりとなるので、機能面、デザイン面などオリジナリティを出していくのが難しくなるだろう。そこで、各社が力を入れるのが企業ビジョンの確立とブランディングだ。
バレエの世界史(海野敏著, 中公新書, pp.287-289, 2023)によると、バレエの舞踏技法の美の核心は動作の徹底的な効率化がもたらした「優雅さ」という。この「優雅さ」は動きを伴う乗り物全般にいえる重要なキーワードであろう。この優雅さは、姿勢(ポーズ)と動作(ムーブメント)に分けられる。姿勢は安定と調和であり、均整がとれていることである。動作は動きで常に最大限の広がりを感じさせることであるという。このバレエの広がりが乗り物の造形のボリューム感に通じるのではないかと考えている。

図1 近距離用電車

図2 中距離用電車

図3 特急気動車

図4 500系新幹線

図5 オランダの電車
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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