第29回 温かいデザイン(5)

2018.10.25 山岡 俊樹 先生

 10月中旬に韓国・全州市(Jeonju)で開催されたサービス系の国際会議に発表のため出張した。関空から仁川国際空港へ、そこから高速バスで全州市に到着し、時刻は18:00近くになり、あたりはかなり暗くなっていた。事前に宿泊するホテルの目途はつけておいたが、よく分からず、面倒なのでタクシーで行くことにした。しかし、なかなかタクシーが捕まらず、さてどうしたらよいのかと考えていたら、近くの交差点で交通整理をしていた2名の若いお巡りさんがいたので場所を聞いてみた。彼らもわからず、タクシーが駐車している場所まで案内してくれて、タクシーの運転手にカーナビで調べてもらうと近くであることが分かった。

 そこで3人で歩きながらホテルまで連れて行ってくれたのだが、歩きながら彼らとしゃべっていると日本は好きだよと言ってくれた。ここまで親切にしてくれたことに驚いたのと、嬉しかった。韓国は儒教の影響が強いためか、年寄りには親切だったかもしれないが、それにしても親切であった。50代半ばのとき、韓国ソウルの地下鉄に乗っていた際、日本を含めて生まれて初めて席を譲られた経験がある。日本では席を譲られたことがないのに、外国で譲られ、感動し不思議な気分であった。

 翌日、全北大学校(Chonbuk National University)のゲストハウス前から発表会場まで連絡バスがでているので出かけた。当初、タクシーの利用を考えていたが、なかなか捕まらない経験をしたので、連絡バスを利用することにした。ゲストハウス前で連絡バスを見つけ、宿泊している発表者全員がバスに乗るまで時間があったので、バスの運転手にどこかトイレはないのか尋ねた。残念ながらないとの回答であった。近くの会場に行くまでの時間なので、我慢できると思い、そのまま乗車しスタートした。大学構内のある建屋を通り過ぎたとき、バスが急に止まり運転手がトイレ休憩だと言ってくれ、トイレまで案内してくれた。この対応には驚いた。

 以上の2例から温かいデザインならぬ、温かい心を読み取れる。温かい心は、利己ではなく利他の心で、人々の間の潤滑油となる。また、温かいデザインの中核の概念かもしれない。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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