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第38回 温かいデザイン(14)

2019.10.28 山岡 俊樹 先生

 乗用車は売り物であるので、消費者に関心を持ってもらうために、最先端のイメージにしている。各社は独自色を出すため、いろいろデザイン的に工夫をしているが、大同小異で冷たいデザインが多い。TVのCMも自動車の宣伝は、個性的、最先端、斬新などと声高に叫んでいる。自動車という存在からすればこのようなPRは当然であるが、なぜか心が和むような自動車は少ない。

 工業製品でもあるプレハブの住宅のデザインも同様な気がしてならない。住宅という性格上、心が和むというTVCMをよく見るが、住宅のデザインがモダンデザインかその亜流ばかりのようである。他社との競争上、より見栄えを重視する為か、モダンで新規性がデザイン競争のポイントになっているようだ。

 フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)がデザインしたサンフランシスコにある旧モーリス商会(1948年)の建築を、今から約40年前に見学した。その当時は確かファッション系のお店になっており、入室は可能で室内を見せてもらった。非常に柔らかい空間で、緊張感がなかった。その当時、このような温かい空間が世の中にあるのだなと実感した記憶がある。現在の建築空間は無駄がなく、整然として綺麗なのであるが、なにか痛々しい感じがするのは私だけではないだろう。綺麗であるが、よそよそしく心が落ち着かない。このような空間はオフィスビルに多い。ある程度の温かさも必要であるが、仕事をする上での緊張感や規律が必要なので、冷たいデザインとなっているのだろう。

 20世紀の建築家で3大巨匠と言われるミース・ファン・デル・ローエ(?Mies van der Rohe)はシンプルでモダンなデザインを行い、Less is more(より少ないほど(シンプル)豊かだ)といったが、ロバート・ヴェンチューリ(Robert Venturi)はこれに対しLess is bore(より少ないほど退屈だ)と反論し味のある建築をデザインした。ヴェンチューリのデザインした高齢者用集合住宅のギルドハウス(フィラデルフィア)は、本人の意図として特徴のないデザインであるが、記号論的な意味を含み温かい感じのする建造物である。

 今年、上海と台湾に行ったが、上海・浦東地区のオフィスビル街に建っていたレンガ風の高層ビルは、心理的距離感が短く、味があり気に入った(図1)。一方、森ビルが開発に参画した同所で建てられたビルは外観がオールガラス製で超モダンのデザインであった(図2)。台湾では日月湖の湖畔に建てられたホテル(図3)は、窓が円形でバナキュラー(Vernacular:土着といった意味)的な建築であった。日月湖の建物は15年前にも見たが、その時はモダンデザインに背を向けた台湾風のデザインと感じ、このような世界があるのだなと印象を持った。しかし、その後、見方が変わって、その良さを理解できるようになった。以前、台湾の大学で学生のデザインアウトプットをみると、いかにも台湾風の印象を持ったが、今考えてみるとその必然性と良さが分かる。グローバリズムで、多様な人々の支持を受けるため、デザインや建築が画一化され、地域性が無くなり、個性のない製品や建築が増加しているのは残念である。コンクリート製のビルでも台湾や中国では地域性に根差したデザインを多く見るが、我が国の場合、コストなどの関係からか、画一化したデザインが多いように感じる。


図1 上海のビル(1)

図2 上海のビル(2)

図3 台湾・日月湖のホテル

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