第43回 温かいデザイン(19)

2020.04.16 山岡 俊樹 先生

 モノ・システムと直接関わったとき、それらとの意味が発生する。関わらない場合は単なるオブジェクトに過ぎないが、事前にモノ・システムとの間に了解事項があったときは直接関わらなくとも意味が発生する。了解事項とはそれらに包含している際立った特性、およびそれにより生起される存在感である。最近、家庭用超音波吸入器を通販で購入した。おぼろげな使い方のイメージはあったが、マニュアルを読みながら使うと実感した。こうやって使う機械なんだなとの意味が生じる。ところがライカのような高級カメラの場合、カメラ通なら了解事項を共有しているので存在感を感じるのである。高級ブランド商品も同様であろう。ブランドという存在感である。この存在感がユーザーを覚醒させ、精神的な安心感を醸成させる。

 20代の頃、ひょんなことから業務として、関係会社の一眼レフカメラのデザインをする機会に恵まれた。カメラは学生時代から、自分で現像をするなど使い込んでいたし、カメラオタクでもあった。勇んで取り組んだが、様々なデザインや使い勝手は発想できるものの、何かが抜けていた。今でいうところの企業のビジョンであり、人間と機械との関係、存在感など、デザインの行う前のモノづくりの哲学、熱い思いであろう。勿論、企業としての戦略は十分練っているのであるが、企業・デザイン側のモノづくりの哲学、熱い思い入れを共有する時間が無かった。様々なデザインは楽に生み出せるが、一番肝心なのがその製品に対する関係者一同の思い入れであり、哲学だと思う。その思い入れ、存在感をブレークダウン(分解)して、可視化に導くべきであると思う。いかにきれいなデザインでも、企業の哲学、思い入れが無いと、魅力を感じない。「仏を作って魂を入れず」ではないが、形を作って魂を入れず、の感がする。建築も同様でモダンデザインという潮流に乗って、カッコいいデザインは生まれているが、心を打たないのが多い。クライアント・建築家の生活哲学が見えないからである。建築物や製品はアートと同じ作品なのか?ホンダの創業者である本田宗一郎は、エンジニアとデザイナーが開発した自動車の前に立ってPRしているポスターを見て、ポスターを破棄させたという話を本で読んだことがある。自動車はみんなで作ったものであるのに、なぜエンジニアとデザイナーが選抜されるのか、という考えであろう。建築家やデザイナーの仕事はクライアントと一緒にモノ・システムの哲学を創り、その哲学を体系化し、システムとして具現化することである。

 今後は今以上に、企業のモノづくりの哲学は製品を通して存在感となり、ユーザーに訴求していく流れになっていくのだろう。


図 クライアント、デザイナー、ユーザーとの関係

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